そんな訳で、A君、B君、C君、先輩 (Dさんとする。彼は原付──否、エンジン付き自転車で来てくれた)、Nちゃんと共に田舎道に繰り出したのだった。

8月の終わり、太陽光は痛々しいほどに容赦が無い。白線の掠れた、車通りの少ない道路の先は陽炎で揺らめいている。歩道は誰も手入れしないからか雑草が逞しく背丈を伸ばし、半袖の私たちを擽った。



「で、ザリガニ釣ってどうすんの?」



と、少し後ろを走るB君に尋ねられる。



「キャッチアンドリリースじゃない?え、食べたい人いる?」

「いねぇよ」



一応アメリカザリガニはちゃんと処理すれば食べられるらしいことは知っていたので、あらゆる可能性を考慮してそう返事したというのにこれだ。じとっと見つめてやりたいが、ガタガタの田舎道はよそ見出来る余裕が無い。



「もしくは飼う?」



そう言ったのはC君だ。ヘラヘラと笑う癖は喋り方にも移っている。



「俺らで世話しようよ、部室で」

「やめろ、絶対臭くなる」

「ちゃんと名前付けないと」

「話を聞きなさい」



不毛な会話をするうちに、いつの間にか河川敷を走っていた。茎の途中で切断された草が広がる芝生、ジリジリと焦げ付くような暑さを照り返すアスファルト、青色の澄んだ空、巨大な入道雲。自転車の金属部分が太陽を反射して眩しかった。

夏。これぞ夏だ。



「これが人生の夏休みか」



先頭を走る私の呟きは、恐らく誰の耳にも届いていない。





最後に急な坂を登れば、ようやく目的地の公園が見えてくる。小さな公民館と駐車場も併設されているようで、Dさんはエンジンという文明の利器を駆使し、先回りして隅っこに佇んでいた。



「お待たせしてすみません」

「んーん、全然」

「念の為聞くんですけど、本当に一緒にザリガニ釣ってくれるんですか」

「うん、そのつもり〜」



私は結局、Dさんが卒業する最後の日まで彼をあまりよく理解することは出来なかった。何に対しても曖昧な反応を示すので、彼の言葉が社交辞令なのか本心なのか汲み取れなかったのだ。

ただ、意外にもC君はDさんと仲が良かったので、「実は結構楽しみにしてたらしい」と後にC君づてに聞くことになる。



「でさ、」



と、エンジンを停めた原付に腰掛けるDさんが聞く。



「誰がザリガニ釣ろうなんて言い始めたの?」



ぎこちない笑いが沈黙をコーティングした。私はおずおずと手を挙げる。



「あの……私です」



その時ばかりはDさんが何を考えていたか、表情から読み取れた。「え、マジで?」