普段、俺は学校から北西に帰るが、門を出て南へ向かう。
 出身中学で何となくそうだとは思っていたが、その店は先輩の家のすぐ近くらしい。
 でも、そこがケーキ屋だとは知らなかったと聞いて少し嬉しかった。
 外観は膝丈ほどの植物に囲まれ、真っ白な真四角の建物に大きめの黒い庇がついているだけののぼりも看板もないそのお店はそりゃケーキ屋のイメージではないかもしれない。
 やって来たのは力也の兄、浩也(ひろや)がバイトをしているお店だ。
 店内に入るとすぐに右か左に別れているのを見て更に驚く先輩。
 俺が迷うことなく左に進むと、先輩も不思議そうについてきた。
 十席ほどしかないテーブルの最後の一席に座って注文を終えると、キョロキョロしている珍しい先輩。
 その姿が小動物のようでめちゃくちゃかわいい。

「お待たせしました!って、まさか流星が女の子を連れて来るとはなぁ」

 真っ黒のシャツとスラックスに白いネクタイの店員が微笑みながらテーブルに頼んだ紅茶を並べる。

「ひろにぃ、うるさいよ」

 先輩にも微笑み掛けるひろにぃをたしなめると、ひろにぃはまたにっこりと笑った。

「はいはい、すぐにケーキをお持ちします」

 ひろにぃが下がると、先輩はこっちに少し近づいてくる。

「……お兄さん?」
「力也のですけどね」

 納得したように笑う先輩は更にケーキが届くと目を輝かせた。