結局、先輩は何も言わないまま帰って行った。
 軽くショックを受けつつ、俺も駐輪場へ向かう。

「流ー星ー!おっせぇ」

 力也は自転車に跨がってハンドルに両腕をついて項垂れていた。
 ほとんど自転車も消えて周りはどんどん帰って行ったのに、ちゃんと待っていてくれたらしい。

「悪い」

 言いつつ俺も自転車を出す。

「何か食って帰る?」
「いや、もうお前ん家夕飯じゃないのか?」
「あーね」

 いつも通りのテンション。

「今日母さん、麻婆豆腐と春巻きっつってたわ!腹減ってくるー!!」

 空に向かって叫ぶ力也を鼻で笑いつつ、羨ましくも思った。

「その前から減ってたんだろ?」
「いや、リアルに食いもん思い浮かべると余計に腹減らね?」

 いつも素直で明るい力也。
 一緒にバスケを始めた時も、俺がスタメンになって力也はメンバー入りさえしなかった時でさえも応援してくれて……力也はいつもキラキラしていたから。

「食い意地ヤバいな」
「成長期なんだよ」

 笑いながら揃って自転車を漕ぎ出す。

「今日は先生何か言ってた?」
「明日、PFとC(した)はガチ練」
「えぇーっ!!俺、無理っ!!」

 苦手なことははっきり苦手と口にするし、

「無理じゃない。やれ」
「じゃあ、優しく教えてな?」

 素直に甘えるのもうまい。

「森ー!じゃーねぇ〜」
「おぅ!明日な〜!」

 女とだって気楽に声を掛け合うこいつなら……先輩だって笑わせられるのだろうか?