部活前、目の前をヨタヨタ歩いている菊川先輩。
 前もこんなことあったな、と思いながらその隣に並ぶ。

「持ちますよ?」
「いい」

 反応も相変わらずだ。だが、

「吉井くんだっていっぱい持ってるじゃない」

 こっちを見上げてくれるようになったのは進歩かもしれない。
 俺は持っていたウォータージャグとバッシュを片手で持つと空いた右手を差し出した。

「いいって」
「空いてるんで気にしなくていいですよ」

 先輩の腕の中にあるノートを半分ほど取ると、先輩は肩を竦める。

「無理し過ぎ」
「先輩ほどじゃないです」

 答えると先輩はくすくすと笑い出した。
 だが、ふーっと息を吐くとそのまま少し下を向く。

「……ミキたちの噂聞いた?」
「セイ先輩と付き合ってるってのですか?それとも本当はフリって方ですか?」

 先輩の表情は見えなくてただ艶のある黒髪を見つめていると、先輩は足を止めてこっちを見上げた。
 その驚いたような顔に眉を寄せつつも何とか笑いかける。

「一昨日、俺も聞いてましたよ」
「……そっか」

 諦めたようなその顔。

「……フリって」
「付き合って欲しかったですか?」

 聞くと、菊川先輩はパッとそっぽを向いた。

「先輩!今日、時間あります?」
「ない」

 なぜかも聞かずに断ってくるつれない先輩。

「体動かすとスッキリしますよ?」
「もう部活!時間ないでしょ!」

 俺の提案を言う暇もなく、先輩はさっさと体育館に向かってしまった。