“無理をさせたくない”というのと、“やっぱり試合には三木先輩が必要だ”というので悩んでいた菊川先輩。
 止めたいマネージャーの気持ちも怪我した選手の気持ちもわかる。
 それは怪我で新体操を諦めた菊川先輩だって同じだろう。

「アリス先輩って昨日もまだ個別練してただろ?」

 力也に頷きながらコートを見つめる。
 三木先輩は笑顔でチームに指示を出しつつ練習を始めたが、菊川先輩はスコアの準備をしながらそれを心配そうに見ていた。



 試合開始時間になって白の女バスと赤の相手チームがセンターラインで並ぶ。
 三木先輩はスタートから出てきて、更にジャンプボールを跳ぶらしくセンターサークルに入った。

「スタメンってか跳んでいいのか?」

 そんなの俺だってわからない。
 ただ、不安そうに両手を握っている菊川先輩の姿を見る限りでは“いい”とは言えないのかもしれない。 
 主審の手からボールが離れると、三木先輩はそれを追って高く跳び上がる。
 反応も体幹もいい先輩の手がボールを弾くと、すぐに六番の先輩がドリブルで右に開いた。

「っしゃっ!マイボール!」
 
 力也の声を聞きながら俺もスコアの練習にペン片手でボールを目で追う。
 六番から走り込んだ八番へ。
 それ以上攻められず、外でフリーとなった七番にボールがまわる。
 ローから上がってきた三木先輩はペイントエリア内でボールを受けてからターンしてゴールの方を向くとワンフェイクをして右足を左へと出す。
 そのままワンドリブルをしながら足を前後に開いてディフェンスに背を向けると、左足を軸に回ってゴールへと押し込んだ。