「何落ちてんだよ」

 力也に言われて自転車の鍵を開けようとした手を止める。
 振り返ると、力也はため息を吐いた。

「で?今度は菊川先輩と何があった?」
「何で菊川先輩限定なんだよ」
「違うのか?」

 違わないから言葉にできない。
 黙っていると、力也は自転車を跨いだままこっちに歩いてきた。

「……悩んでるなら言えって」

 また……とも思うけど一人では堂々巡りをしているだけでもある。

「俺って先輩のこと部活でしか知らないんだよな」
「は?」

 キョトンとされてやっぱり話すのは止めようと思い直して鍵を開けた。

「いや、待て待て!!当たり前だろーが!学年違うし!」
「わかってるよ」

 自転車を停めてあった場所から出すと、力也はちょっと肩を上げてフッと力を抜く。

「セイ先輩は同学年だからそりゃ流星が知らない菊川先輩のことも知ってるかもな?でも、流星しか知らない菊川先輩もあるだろ?」
「そうでもないから……」

 ムッとすると、力也はバチンと俺の腰を叩いて来た。

「お前、俺を先に帰らせて……って何回あったと思ってんだ?夏休みだって部活でもねぇのに出かけたんだろ?」
「それは文化祭の準備……」
「私服はセイ先輩知らないんじゃないか?」

 確かにそれはそうかもしれない。

「それに「凄かった」しか言わなかったアレは何だったんだよ」

 言われてパッと顔を手で覆った。
 新体操をやる菊川先輩は三木先輩にも見せていない……それを思い出すとニヤけてしまう。
 それで気分急上昇なんて単純過ぎるだろうか?