「吉井くん」

 呼ばれて振り返ると、菊川先輩は口元をノートで隠してちょいちょいと手招きをする。

「何か……大丈夫?」
「あれ……ですよねぇ」

 シュート練なのにどう見てもギクシャクしているコート内。
 声をあげて活気づいている女バスとは違って、男バスは一年とセイ先輩が声を出しているだけで声がなくなることさえある。

「ケンカ?」
「詳しくは聞いてません」

 よくわかっていない俺は何とも答えようがなかった。

「でも、教室には居たのに秋元くんも居ないもんね」
「あ、そうなんですね」

 むしろ、菊川先輩の方が詳しいなんて俺は何も言えない。すると、

「……何か吉井くんも元気ないように見えるけど?テストよくなかった?」

 俺のことも見てくれていた?なんてニヤけそうになるのをコートに目をやりつつ堪える。

「あーまぁ、いいとは言えなかったですかね」
「スコアは綺麗に書けてたから、今度は勉強教えてあげなきゃいけない?」
「え?」

 パッと隣に居る先輩に視線を戻すと、先輩は笑って「またね」と女バスの方に戻って行った。
 今度は勉強も教えてくれるのか?
 でも……スコア?
 俺が見せた訳ではない……ということはそんなの貸してあるあの人しか居ない。
 だって、いつもスコアを借りていくのはセイ先輩だけだから。
 俺は部活での先輩たちしか知らないが、先輩たちは教室で普段から関わりがある訳で……それは一年で学年の違う俺にはどうにもできない。