「菊川先輩……俺にしときません?」
「え?」

 もう黙っていられなくて本音を漏らすと、先輩は驚いたような顔を向けてきた。

「俺はずっと先輩を見てますよ?」

 誤魔化すよりちゃんと伝えることを選択すると、先輩は戸惑いの表情を浮かべる。
 早まった気がしないでもないが、俺だってもう引けなかった。

「ダメですか?」
「そんな……えっと……」

 先輩を困らせたのだろうか?
 手を引くとイスには座ってくれたが、俯いたままだ。

「セイ先輩のことを好きなのは知ってます」
「……だから、フラれたって」
「なら俺のことも見て下さい」
「……さっきちゃんと告白してしっかりフってもらったばっかりよ?」

 やっと顔を上げた先輩はそのまま視線を奥の机に向ける。
 そこにはセイ先輩が着ていたヒラヒラのメイド服があった。

「無理だって……ちゃんとはっきり言ってくれたから……諦めなきゃ……」

 言いつつその目からポロポロと涙が落ちる。

「先輩……」
「ごめんね。フラれても簡単には切り替えられない」

 泣く先輩を見てグッと奥歯を噛み締めた。
 一度ゆっくり息を吐いて先輩を見つめる。
 泣いているのにその顔もかわいいと思うなんてどうかしてる。

「先輩、俺だって簡単には切り替えられないんで……やっぱりまだ好きです」

 先輩はこっちを見てフッと笑った。

「ありがとう。……でも、ごめん」
「……謝んないで下さいよ」

 俺はそれを言うだけで精一杯だった。