化学室の前で息を吐き出す。

「ヤバいな。運動不足」

 ドキドキと動悸が激しくてギュッと制服のシャツを握った。
 これは走ったからか、柄にもなく緊張しているからか。
 もう一度息を吐いてからガラガラと引き戸を開けると、洗い物をしていたらしい菊川先輩が振り返った。

「何で片付けしてるんですか?」
「やっといたら後で楽でしょう?」

 すぐに先輩はまた洗い物を再開してしまって目さえ合わない。

「後でみんなでやるって言ったのにですか?」
「終わってたら楽しい気分のまますぐに帰れるでしょう?」

 俺も横に並んで先輩が洗ったボウルを流し始めると、先輩はふふっと笑う。

「焼きそばとか買って来たんで早く終わらせて食べましょう?」

 その目元が赤い気がするのは気のせいだろうか?
 洗い終えたらしい先輩はさっと手を流して机の方に行ってしまって、俺も慌てて流し終えてその後を追った。

「冷めちゃったと思いますが……食べません?」

 テーブルに広げると、売上げなどを書いたノートを見ていた先輩はそれを置いて一応こっちに来てくれる。
 やはり赤くなっている目。

「何かありました?」
「ううん。別に」

 顔を覗き込もうとすると、先輩はフイッと違う方を向いてしまった。

「じゃあ、何でそんな目赤くしてるんですか?」

 それでも聞くと、先輩は膝に置いた手をギュッと握る。

「……フラれたの!」

 明るく笑おうとする先輩が痛々しい。
 先輩にして欲しい顔はこんなんじゃない。