昼になって化学室に戻って来たセイ先輩と三木先輩。

「キャーーーっっっ!!」

 教室中に響いた叫び声に耳を塞ぐセイ先輩の姿はかわいいのに、仕草は男で不思議な感覚だった。

「ん、《《働け!メイドさん》》」

 そんなセイ先輩に気にすることなくダイ先輩がワッフルの乗った紙皿を渡す。

「客引き終わっただろ?もう脱……」
メイド(それ)目当てに集まってんだから脱がすかよ」
「はぁ!?」

 紙皿を置いて準備室に逃げようとしたセイ先輩はダイ先輩に後ろ襟を掴まれた。
 俺はそんな二人にそっと近付く。

「先輩、《《完売したら》》って言いましたよ?」

 笑顔で伝えるとセイ先輩は口の端を引くつかせた。

「さーて!売ろっか!メイドちゃん?」

 にっこり三木先輩が笑ってセイ先輩から皿を受け取って曲げた左腕を向ける。
 ため息を吐いてヤケになったようなセイ先輩はその腕に手を添えてムッとした。
 腕を組んだ二人にまたギャラリーは騒ぎ出す。

「……あらあら、大盛況ね」

 盛り上がりを聞きつけて調理スペースから出てきた菊川先輩は二人の姿を見てすぐに小さく息を吐いた。

「イケメン執事とメイドが一緒に接客してますからね」
「本当、絵になるわねぇ」

 その言葉がやけに寂しそうに聞こえるのは俺の思い違いだろうか。

「先輩、この後一緒に回りませんか?」
「ごめんね。私は疲れたしここに残ってゆっくり片付けてるから……楽しんで来て」

 迷うこともなく断られて、しかも、その目はセイ先輩を見つめていて……俺は唇を噛むことしかできなかった。