翌日。

「どうぞ」

 男バスの部室の鍵を差し出しながらため息を零しそうになる。
 実はこれからセイ先輩は執事《《ではなくメイド》》に変身させる計画なのだが……楽しそうな三木先輩と菊川先輩を見るだけでちょっと複雑だ。
 カッコよく執事に変身する訳ではないのは安心した。
 でも、ワクワクしている先輩たちの姿は素直に喜べない気もする。
 嬉しそうにしちゃって……俺にはあんな顔はさせられないことが悔しい。

「もうすぐ来るよね?」

 三木先輩か鍵をポケットにしまってニヤリと笑う。

「そうじゃない?さっき教室は出るとこだったし」

 なぜセイ先輩のそんな様子を知っているのか?
 聞いたら余計にショックを受けるからそこは聞かなかったことにした。

「だから、はい!」

 菊川先輩に何枚も紙を挟んだ板を渡されて素直に受け取る。
 三木先輩はセイ先輩と執事とメイドになって客引き。
 菊川先輩は調理要員だったセイ先輩が抜ける分、調理になって……料理なんてできない俺が必然的に販売と飲食スペースの担当となった。
 飾り付けは女バスのセンスでほぼ完成している。

「このお祭りが始まる前の感じってワクワクするよなっ!!」

 力也が女子に頼まれて高いところに最後のガーランドを飾っているのを見て、俺は少し息を吸ってからゆっくりと吐き出した。
 文化祭はセイ先輩は三木先輩に連れ出されるから菊川先輩とは一緒にはならない。
 落ち着いて……俺は任された役割をしっかりこなす方に集中した方がいいだろう。
 せめて、ミスって使えない男とは思われなくない。