バタバタと練習終わりなどに準備をしているうちに夏休みも終わり、すぐに体育祭当日。
 学年競技などが淡々と進み、俺は菊川先輩に呼び止められていた。

「今、いい?」
「えぇ、俺は障害物リレーだけなんで」
「え、それって部活動対抗リレーの予選直前のやつ?」
「……あー、そう……ですねぇ」

 菊川先輩の反応を見てやらかした、と思う。
 部活動対抗リレーは午前の最後に予選で、決勝に進めば午後のラスト。クラス対抗リレーの直前が決勝だ。
 障害物リレーは点数を競うというよりお楽しみの競技で決勝もないと聞いて、どれか一つには出場しないといけないならばこれに出てさっさと終わらせよう!と思ったのだが、違ったらしい。

「これ、ミキが端切れで作ったんだけどね」

 見せられた菊川先輩の手には何本か黒いハチマキが握られていた。

「……はぁ」
「これを男バスと女バスのみんなで着けないかって」

 言いながら一本抜いて手招きをされる。
 首を傾げると、

「ちょっと屈んで」

 言われて膝と腰を曲げた。
 近づいて来た菊川先輩はそれを俺の首にかけてサッと結ぶ。

「ん、いいね。こんな感じで、リレーメンバー以外に配ってくれる?」

 こんな近い距離に先輩が居て、甘い香りを感じた俺はドキドキと胸が騒ぎ出した。

「吉井くんが障害物リレーの招集と競技やってる間に男バスは着替えたりするでしょ?部室の鍵は預かっておくから!」

 それを誰に渡す?なんて聞かなくてもわかる。
 感情が揺さぶられ過ぎて少し目眩がした。