『キャプテンだけ特別衣装作っていい?』

 俺の反応がないことに焦れたのか、菊川先輩が身を寄せてくる。

「あ、えっと……」

 もう一度指でトントンとされて答えようとすると、菊川先輩は人差し指を俺の口元に当てた。
 それだけで俺のキャパなんてとっくに超えてしまう。
 バクバクとうるさい心臓を抑えるのに必死なのに、先輩は笑って先輩のペンケースからシャーペンを取り出して俺に渡してきた。

『小嶋くんにはナイショだから、書いて』

 たったそれだけなのに菊川先輩の想いを感じる気がしておもしろくない。

『特別衣装って何を作るんですか?』
『メイドと執事だって』

 だって、という書き方に発案は三木先輩だとわかる。
 だが、何となく執事の衣装を着るセイ先輩を思い浮かべてしまってそっとため息を吐いた。
 あの冷静でクールな顔に執事の衣装……そりゃ似合うだろうよ。
 どう見たって楽しみっぽい菊川先輩にも少しイラっとしてしまった。

「でも、予算は……」

 シッ、とシャーペンを押し付けられて黙る。
 俺の口に付いたけど……先輩はいいのだろうか?
 一瞬、さっきのイラつきなんて忘れてそんなことを心配してしまった。

『大丈夫!端切れとかで何とかなりそうよ!』

 予算も問題なく、案もここまで進んでいて……どうやって俺が反対するのか。

「いいんじゃないですか?」

 嬉しそうに笑う先輩はそのまま三木先輩の方へ駆けて行ってしまった。