「あの先輩のことだろ?」

 弁当のフタを開けたくせに箸には手を伸ばさない力也。

「……先輩は俺のこと見てない」

 黙っていたって力也は話題を変えないことを知っている俺は仕方なく今朝気づいたことを口にした。

「は?こっち見てんじゃん」

 力也はちゃんと声のボリュームは落としつつ眉を寄せる。

「男バスは見てる。でも、俺じゃない」
「……誰?」

 ちょっと考えて、でも、思い当たらなかったらしい力也は体を起こして少し首を倒した。

「……」
「わかってんだろ?」

 そりゃわかっている。
 だから、ショックを受けたんだ。
 自覚したらその先輩は他の男を見ていたなんて。
 しかも、それは俺も凄いと思っている先輩だったなんて。

「誰?先輩?」

 頷いて俺も力也と目を合わせる。

「…………セイ先輩」
「マジか」

 ゆっくり息を吐き出してからその名を告げると、力也はギッとイスの背を持って仰け反った。
 セイ先輩は男バスキャプテンで、陸上部出身のヒサが入るまでは男バスでも一番足の速かった先輩だ。
 いつも冷静で判断力も統率力もある頼りになるキャプテン。
 俺がマネとして入るまではキャプテンを務めながら練習メニューも組んで部室の管理もし、スコアだっていつもしっかりチェックする人で尊敬でしかない。

「敵うかよ……」
「諦めんの?今回はまだ二人は付き合ってもねぇのに?」

 言われて考える。
 まだ“好き”を自覚したばかりの俺。
 なのに、ライバルが強敵過ぎて考えなんて放棄したかった。