ふと目をやると、菊川先輩と目が合って軽く会釈をしておく。
 女バスはシューティングを終えて次のスリーメンに移るところだった。
 俺は先輩と目が合ってちょっと嬉しいのに先輩はサッとノートに目を移してしまう。
 少し寂しさを感じつつ、俺もノートに意識を戻してシャーペンをクルクルと回した。
 今は練習中。
 思ってもどうしたってそっちが気になってしまう。
 あの睨むような目の理由もコートに立ち入らなかった理由も理解したし、もうそんなこともなくなりつつあるのに。
 気づいたら女バスを見ていてハッとする。

「何?ヨッシー、どったの?」

 いつの間にか休憩になっていたらしく、お茶を飲みに来たトモ先輩が俺の肩に手をついてきて内心跳ね上がった。

「いえ、強いチームから学ぶことは多いのでちょっと練習が気になるだけです」

 冷静に言葉を紡ぎつつ、そうだろうと自分に言い聞かせる。
 今、気になるのは強い女バスの《《練習》》だ。
 そこに菊川先輩が居るだけで、先輩を見ている訳ではない……はずだ。

「ふーん……最近菊川さんと仲良いかと思ったんだけどな?」
「スコアを教えてもらっているだけですが?」
「真面目かよ」

 実際に教えてもらっているスコアを見せると、トモ先輩はうげっと舌を出す。

「ヨッシー、そのスコアの今度借りてもいいか?」
「お前も真面目過ぎ」

 セイ先輩も加わると、トモ先輩は逃げるように笑っている力也たちの方へと走って行った。