「へ?あ……凄い、です……ね」

 感動のあまり言葉がうまく出て来ない。
 何を言っても軽くなりそうで、俺はまだ高揚している胸を押さえた。

「本当、硬くて……びっくり」

 息を弾ませながらこっちに来た先輩は俺が停止しなかったせいで流れ続けている音楽を止める。

「硬い?」

 俺も見よう見真似でY字バランスをしてみるものの、足は腰まででもキツい。
 あんなピッタリなんて……無理だ。

「ふはっ!何それ!」

 本当に硬い俺を見て、吹き出して笑い出す先輩を見下ろす。

「楽しかったですか?」
「……ん、そうね」

 リボンをケースに戻して先輩は伸びをした。
 スッと伸びた手足。
 伸びだけなのになぜこんなに綺麗なのか。

「え、終わりですか?」

 ハーフシューズを脱いで髪も解いた先輩の手を思わず掴むと、先輩は困ったように眉を寄せた。

「“楽しかった”と“やれる”は違うのよ」
「は?」
「正直、限界」

 ゆっくり息を吐いて股関節を擦る先輩にかける言葉が見つけられない。

「何て顔してるのよ」
「だって……」

 バチンと背中を叩かれたってうまい言葉は出てこなかった。

「吉井くんもそんな風にされたらどうするの?」
「え、あ……そう、ですね」

 確かに、俺の肩のことを知ってこの反応は困る。

「帰ろっか!」

 スカートを履き始める先輩に気づいて、俺は急いで見ないように体育館の戸締まりをした。