「ね、いつまでそうしてんの?合図したらこれ再生押してくれないの?」

 トントンと肩を叩かれて手渡されたのは先輩のスマホ。

「……わかりました」

 答えつつ、先輩の姿を直視することはできなかった。
 白いTシャツは薄っすら青いブラが透けているし、黒のスパッツはピタッとしていて先輩の体のラインがハッキリと出てしまっている。
 下手に意識する方がよくない気もするが、気にしないのは無理だった。
 鮮やかなブルーのリボンを手にしてパシンと音を鳴らすと、クルクルと器用に棒を動かす先輩。
 すると、魔法のようにリボンは丸く綺麗に集まってきてスルリと纏まった。

「いいよ」

 先輩は体育館の中央で床にリボンを置いて座っている。
 伸ばした足に上半身もペタンとくっついていて、そんなの俺にはできそうもない。
 言われるままに再生を押すと、ゆったりとしたピアノの音がし始めた。
 どこかで聞いたことがある気がする綺麗な曲。
 クルクルと螺旋を描くリボンも軽やかに動いてそれを操る先輩も……見惚れるってこういうことかもしれない。
 曲調が変わってポーンっと高く投げ上げられるリボン。
 クルンと回転して器用にキャッチしつつまたリボンを操る先輩。
 ただの体育館なのに輝いて見えて、さっきまで直視するなんて無理だったのに目が離せない。
 ふわりと笑う先輩はいつもの厳しい目で体育館に居る姿とは別人だった。
 生き生きとした姿にこっちまで惹き込まれる。

「吉井くん?」

 だから、呼ばれるまで俺はその余韻から抜けられなかった。