「……本当はまだやりたいから……ですか?」

 一瞬聞くのはためらったが、止めるのも違う気がして口にした。
 こっちを睨み上げて、でも、表情をすぐに緩めた先輩。

「違う……とは言えないかもね」

 息を吐いてまた腰を降ろした先輩を見て、俺は(ぬる)くなった缶の中身を流し込む。
 僅かな甘みがやけに染み渡る気がした。

「ならやればいいのに」

 ノートとペンを取ると、先輩もスコアを開き始める。

「簡単に言わないで。もうあんな開脚はできないし、競技会でも……」
「俺も公式試合は無理だけど、今たまにバスケをして……やっぱり楽しいですよ!」
「はぁ?」

 眉を寄せる先輩。

「“スポーツは試合の結果だけじゃない”ってことです」

 ニッと笑うと、先輩はクルンとペンを回した。

「そうは言っても新体操はバスケと違ってどこでもやれる訳じゃないのよ」

 知らないでしょ?
 顔にそう書いてある。

「でも、体育館でできない訳ではないですよね?」
「まぁ……ね」

 少し口を尖らせる先輩がかわいい。

「なら今度……朝練はみんな居るし、昼もコタ先輩が居るそうなんで……夕練終わり、マネ()が最後鍵締めるし少しくらいやれないですか?」
「あのねぇ」
「見せて下さいよ!新体操!」

 膝に手を付いて目を合わせると、先輩は呆れたような顔をしてから少しだけ笑った。