「綺麗」

 先輩はもう何度その言葉を口にしているだろうか?
 先輩の左手首でキラキラしている細いピンクゴールドのブレスレット。
 こういうのに詳しいらしい三年のモト先輩に教えてもらって店に行き、女だらけの店で浮きまくって買った甲斐はあったらしい。
 ただ、俺としては今のこの状況はドキドキして落ち着かない。
 なぜならここは先輩の部屋で、兄しか居なくて、いつもつるんでいる力也だって兄と弟の男兄弟である俺は女の子の部屋なんて初めて入ったから。
 どこを見たらいいかわからなくて、何かいい匂いのするこの部屋は息をするだけで悪いことでもしている気がしてしまう。

「あ!ケーキっ!持ってくるね!」

 やっと思い出したらしい先輩がパッと立ち上がったが、一人取り残されるのもまた落ち着かない。
 下手に動いて何かを見てしまったらまた「エッチ」と言われてしまいそうで、俺はピタリと固まったまま控えめに呼吸をすることだけに意識を集中する。

「えー?緊張し過ぎじゃない?」

 戻ってきた先輩に笑われたがグギギと油が切れたブリキのように動くのが精一杯。
 少し笑うと、先輩は「目を閉じて!」と白い皿を持ったまま言う。
 そのまま目を閉じると、カタンと目の前のテーブルに皿を置く音がした。

「いいよ。目、開けて」

 言われて開けた俺の目に飛び込んできたのは『Happy Birthday』と書かれたハートのチョコケーキ。

「え!?」
「明後日、誕生日なんでしょ?」

 小首を傾げた先輩の腕を引いて思いっきり抱き締めた。