「いや!あの……!!」

 怪しい者ではない、と言う前にその人物を確認してホッとして力を抜く。
 笑っている先輩は思わずしゃがみ込んだ俺に手を伸ばした。

「ほら!立って!先生に話して今日は音響係やってもらうから!」
「は?」

 手を伸ばして掴もうとしたまま固まってしまう。

「観客席は居辛いでしょ?だから、スタッフとして手伝って!」

 笑うその姿が見られて、更に気にしてくれたことが嬉しかった。
 先輩と一緒にやっと会場に入って先生に挨拶をする。

「ごめんね!むしろ、今日よろしくね!」

 微笑まれて少し話してから今日のプログラムを受け取ると、今度は先輩が音響の説明をしてくれた。
 リハーサルの間に俺も実際に音を流してチェックする。
 そして、言われるまま体育館の観客席を開放して親たちに入場してもらってから戻ると、先輩はそれまでよりメイクをしてかなり華やかな顔になっていた。
 いつもはポニーテールか下ろしているその髪もしっかり頭の上で団子になって固められている。
 丸見えの項がやけに細く白く見えてドキッとした。
 だが、今度は幼稚園児たちが「遊んで!」とせがんできたり、中学生たちが「まさちゃんの彼氏?」とニヤニヤしてきたりで先輩とはなかなか一緒には居られなさそうだ。