部屋でベッドにゴロンと横になる。
 いつもなら先輩を送って帰ってきてそれを反芻しながら幸せに浸るのに、それもなくて寂しいと思ってしまう。
 すると、スラックスのポケットに入れてあったスマホのバイブが作動した。
 取り出してみるとそれは先輩からで、『電話してもいい?』そんなメッセージを見てむしろすぐに通話を押す。

『反応早くない?』

 ちょっと笑ったようなその声が嬉しくて、俺は起き上がりつつ耳を澄ませて先輩の声を聞き逃さないようにした。

「そりゃ、先輩からの連絡は何だって即反応しますよ」
『何それ』

 くすくす笑うその姿を頭の中で想像して無性に会いたくなる。

「練習帰りですか?」
『ううん!休憩中!今、中学生のレッスンが終わって先生が親たちと話してるから。この後私も少しだけ練習するの』

 周りがガヤガヤしているのはまだ教室だかららしい。
 
「遅くなりません?」
『お母さんが迎えに来るから大丈夫よ!』

 そう言われてしまったら俺の出番はなくなる。

「見に行きたいな」
『うん!びっくりする演技できるように頑張るね!』

 楽しそうなその声を聞いて少し安心した。
 一時は過呼吸を起こすほどだったが、大好きな競技をまた心から楽しんでいるような先輩に俺も負けていられない。

「無理はしないで下さいね」
『うん!ありがとう!』

 持ち帰っていたノートを開くと、今日の反省点をまとめて明日の練習メニューを考え始めた。