そんな不意にくる甘えモードの先輩に悶えながらもイチャつく日々で俺たちは距離を縮めていた……と思っていた。

「え?」
「だから、明日からしばらく私、マネ休むから」

 部活終わり、突拍子もなく言われた言葉で固まる。
 体育館を出たところでしれっと言ってさっさと踵を返した先輩の腕を掴んで止めると、先輩は特に表情の読めない顔でこっちを見た。
 人の気配がある場所での先輩はいつものクールで冷静な顔をなかなか崩さない。
 それはわかっているのに、今日はちょっと俺にも余裕がなかった。

「ちょっ!!しばらくってどういうことですか!?」
「しばらくはしばらくでしょ?」

 食い下がっても先輩は俺の腕をそっと外そうとする。

「聞いてません!」

 簡単に外されるわけにはいかなくて指先に力を込めると、先輩はピクッと眉を動かした。

「だから、今言ったでしょ?」

 その声に有無を言わせない威圧がこもる。
 すると、一瞬怯んでしまったその隙に腕がすり抜けていった。
 何で急にマネを休むのか?
 どうして明日からなんてこんな急に……もっと早く教えてくれたり、相談してくれたりしなかったのか?
 去っていく後ろ姿を見たまま俺はため息を吐いた。

「大丈夫?」

 すぐに三木先輩が声を掛けてくれたが、言葉が出て来ない。

「……休む理由……吉井くんも知らないんだね」

 言われて、三木先輩も知らなかったことは驚きつつも少しホッとしてしまう。
 俺だけではない。
 それなら……。