何が?とさえ聞けずにいると、先輩は俺の腕を掴んだまま俯く。

「……あの二人が本当に付き合ったら、私の片想いも終わっちゃうってわかってたのに……」

 ギュッと力を入れて握られて、それが先輩の堪えるモノを表しているかのようで切ない。だが、

「なのに…………終わらせたのよ」
「はい?」

 どういうことか理解できず声が少し裏返った。
 終わらせた、とは?
 先輩が止せばいいのにあの二人をけしかけたことだろうか?
 それには理由があった、ということか?

「二人が付き合えばいいと思ったの」

 力が緩んで先輩が俺の腕にそっと触れる程度になる。

「あの、いまいち意味が……」

 聞くと、先輩は顔を上げた。

「……わからない?」

 わからない。
 でも、即答してはいけない気がする。
 黙っていると先輩はフッと少しだけ笑みを溢した。

「……たぶん……居てくれるって安心するものがあったからよ?」

 いつの間にか引いている涙。
 いつもの意思の強そうな目がこっちを見てくる。

「それって……」
「本っ当、悔しい」
「は?」

 聞こうとした言葉を遮られてまた声がすっ飛んだ。

「何で最近、小嶋くんじゃなくてきみばっかり頭に浮かぶのかなぁ」

 小さくなっていくその声を逃すまい、と聞くことに集中しつつ今度は俺が先輩の手を握る。

「夢、じゃない……ですよね?」
「さぁ……どう?」

 笑う先輩の手を引いて抱き寄せた。