「今日って時間ある?」
「はいっ!!」

 夕練終わりに菊川先輩から声を掛けてきてくれて即返事をする。
 嬉しさを隠せないでいると、先輩はくすくすと笑った。

「じゃあ、ケーキ食べに行かない?」
「行きます!」

 食い気味に答えてしまうと、先輩はパシンと軽く俺の腕を叩く。

「どうしたの?キャラ崩壊してない?」
「それを言うなら先輩もですよ」

 また笑っている先輩の手を掴むと、先輩は驚いた顔をこっちに向けた。

「え?」
「無理してません?最近やたら笑ってますが、すぐため息も吐いてるじゃないですか」

 心配していたことをぶつけると、先輩は眉を寄せてこっちを向く。

「辛いなら無理して笑わなくていいんですよ?」
「そんなの……」
「笑った後、そんな辛そうなのにですか?」

 聞くと、先輩は俯いた。

「できるなら笑って欲しいです。でも、無理はして欲しくないんです」

 反応がない先輩を見てやらかした気がする。
 別に今言わなくてもよかったと後悔するがもう遅い。

「……先輩?」

 躊躇いつつ声を掛けると、先輩はこっちを見上げた。
 その黒い瞳には涙が溜まっていて戸惑う。
 まさかの笑わせるどころか泣かせたなんてっ!!

「ご、ごめっ!!」
「わからないの」

 ワタワタと慌てると、先輩は潤んだ目から涙を溢した。

「はいっ!?」

 せめてハンカチを出したいのに両腕を掴まれていて出すことができない。