力也には先に帰ってもらって、菊川先輩の元へと急いで戻る。
 先輩は俺が置いたタオルを畳んで膝に乗せてそこに座っていた。

「そのタオル使ってないから大丈夫ですよ?」
「それなら尚更汚す必要ないでしょ?」

 言いながらタオルを返してくれる。
 丁寧に畳まれたタオルが先輩らしくてちょっと笑ってしまった。

「どっちがいいですか?」

 好みがわからず自販機で買ってきたミルクティーとカフェオレを見せると、先輩はキョトンとする。

「気を遣わなくていいのよ?」
「俺が喉渇いてたんですよ!どっちにします?」

 先輩はしばらく俺の手にある缶を見つめて、そろりとカフェオレを指さした。

「ありがとう」

 手渡すと、俺より遥かに小さな手がその缶を包む。

「はい」

 それだけでちょっと嬉しくて、俺はミルクティーを一気に半分飲んだ。
 先輩はチラッとこっちを見てもう一度缶を見つめる。
 タブにかけた指がパチンと音を鳴らせただけなのを見て、先輩の手にあるそれを開けてあげると、

「ありがと……」

 少し耳を赤くした先輩が俯いてポツリと溢した。
 その反応に思わず『かわいい』と思ってしまう。
 コクリと少し飲んだ先輩が缶を置いたのを見て俺もその横に置くと、先輩はカバンからスコアブックとメモ帳を取り出した。
 俺もカバンからノートを出すと、先輩は少し微笑む。

「本気で覚える気だったのね」
「信じてなかったんですか?」

 まぁ、そう言われても、あの時は咄嗟に出た言葉だったから仕方がない。
 それでも今日は色んな顔を見せてくれることがただ嬉しかった。