「お互い干渉しないし、どっちも普段のペースは変えない。しかも、それでいいから付き合えるんじゃないの?」

 先輩の顔にはもう涙の気配はなくて、どこかスッキリとしたようにも見える。

「気づいてる?今、ちゃっかり手繋いでるけど」

 笑う菊川先輩の向こうでセイ先輩たちはしっかり指を絡めて寄り添っていた。

「毎日メールして休みの日は一緒に過ごして……そんなことしなくてもミキと小嶋くんは十分カップルよ!ってか、もう熟年夫婦の域でしょ?」

 あーあー!と菊川先輩が首を回すと、

「小嶋ぁ」

 間延びした声で三木先輩が呼んでセイ先輩が隣を見上げる。
 瞬間、三木先輩がセイ先輩にキスをして俺はピタリと動きを止めた。

「……ドキドキした?」

 ゆっくり離れて角度をつけたままで笑う三木先輩。
 垂れた前髪から覗く碧い目がイタズラっぽく細められる。

「お、前……」

 セイ先輩はパクパクと口を開けて、三木先輩はケタケタと笑った。

「もー、二人で好きにして」

 手を振って去っていく菊川先輩の後ろ姿を見ても俺はすぐには立ち上がれず、這って通路を引き返す。

「お前はバカなのかっ!?」
「えー?じゃあ、今なら二人きりだから今度は小嶋からして!」

 二人の会話を聞きながら体育館の陰に入ると俺は立ち上がって走った。
 あんな目の前でキスシーンまで見せられて、果たして先輩は大丈夫だろうか?