「……面倒でしょ?色々付き合ってるって言われたりして」

 少し声のトーンを抑えた菊川先輩の声を聞きながら俺はこっちの壁に凭れ掛かった。
 セイ先輩の反応は聞こえてこない。
 なのに、ちょうど三木先輩が歩いて来るのも見えて焦った。
 だが、三木先輩は少し笑うと口元に人差し指をスッと当ててから俺の側に来る。

「フォローお願いね」

 ウインクされてその意味を聞けないまま、

「キク?」

 三木先輩は体育館から顔を出して、外に出ると格子の扉を閉めた。

「何やってんの〜?お腹空いたしご飯行くんでしょ〜?」

 閉めた引き戸に凭れ掛かった三木先輩は隠すこともなくふわぁと大きなあくびをする。

「ミキ、今……」
「キク〜!話しながらじゃダメぇ?」

 菊川先輩の言葉に三木先輩はとろんとした目を向けて微笑んだ。

「は?」

 困ったような菊川先輩と

「小嶋も一緒にご飯行けばいいじゃん!それかまた小嶋が作ってくれる?」

 気にしていないのか、のんびり首を傾げる三木先輩。

「フザけんな」

 セイ先輩が睨むと、三木先輩はケタケタと笑った。

「またって……ご飯作りに行ったりもするの?」
「いや……」
「小嶋のシチューおいしいよ!」

 菊川先輩が走って行くのを見て、俺はどうしたらいいのかわからない。

「吉井くん、ごめん。追いかけてやってくれる?」

 格子戸を開けて言われて、とにかく俺も菊川先輩を追って走った。