「祐朔!」
声が聞こえた。
いつも兄に向けられる、求め続けていた母親の声が僕の耳に届いていた。
「心配したのよ。病院に運ばれたなんて……」
僕の手をそっと握り、母親は泣いていた。
ポロポロとこぼれる涙を拭うことさえ忘れて、母親は僕の手を、腕を、優しくさすった。
「……ごめん」
自分が何に対して謝っているのかわからないけど、申し訳ないような顔をした裏で喜びに満ち溢れていた。
母親が僕を見てくれている。
泣くほど心配してくれている。
ちゃんと心の片隅では、僕のことを思ってくれていたんだ。
それがとてつもなく嬉しくて、無意識に上がってしまう口角を下げることに必死になっていた。
母親がこんなに心配してくれているのは、人生で初めてだ。
きっとこれは、演技でもなんでもない、本心からきた涙だろう。
だって周りには、僕と母親以外の誰もいない。
演じる必要がないのだから。
「ちゃんと生きててくれて、よかった……」
目の前がふっと暗くなる。僕に覆い被さるように、背中に手が回る。
わんわん泣く母親が、僕を抱きしめていた。
冷えているのか、温もりは感じられなかったけど、幸せで胸がいっぱいになった。
「お母さん、手続きしてくるから。もう少し寝ていなさい」
しばらく泣いて涙が引いてきたころ、目を真っ赤にした母親が僕を寝かせた。
流れのまま白い天井を見たあと、水色のカーテンの向こうへ消えていく母親を見送って、僕は再び眠りについた。