昨日まで教室中だけでなく学校中が違う空間みたいだったのに、今はもうどこを見ても現実になっていた。
準備するのに何十日もかけたのに、片付けるのは一瞬で、名残りすらない。
その景色を、あんなにめんどくさくて嫌だったのにもう一度見たいと思ってしまう。
浮き足立ったあの非現実的な世界にずっといたいなんて、自分が感じた苦痛さえも見て見ぬふりをしてまで願っていた。
「今日、時間いい?」
帰る直前、険しい顔をした稔が机に両手をついて僕を引き止めた。
頭に澪の顔がよぎった。
彼女を迎えに……。
……そうだ。もう迎えに行ったり一緒に帰る必要がなくなったんだ。
そう気付いたとき、ふと寂しくなる。
「うん。僕も、話したいって思ってた」
教室から人がいなくなるのを無言で待っている間の時間はほんの十数分だったのに、やけに長く感じた。
「……どっちから話す?」
いつも率先して話を始める稔は、今日は本当に苦しそうな顔をして黙りこくっている。
ただ事じゃない話が始まるのは、誘われる前から何となく察していた。
……その話を聞く心の準備は、まだできていなかった。
「祐朔が先のがいいと思う。きっと俺の話聞いたあとは、話す気なくなるだろうから」
「わかった」
何に対して申し訳なさを感じているのか、何度もごめんごめんと謝る稔と前後で座って向かい合う。
僕の話も、先に聞いたらあとから話す気がなくなるような内容だと思うけど、そんなことは言えなかった。
心の準備をする時間ができたことに、ほっとしているところがあったから。
ゴクリと唾を飲み込んで、深く息を吸う。
……聞く準備はできていなくても、話す準備は前々からできていたはずだ。
大丈夫。きっと、大丈夫。
自分にそう言い聞かせて、僕は震えながら口を開いた。
準備するのに何十日もかけたのに、片付けるのは一瞬で、名残りすらない。
その景色を、あんなにめんどくさくて嫌だったのにもう一度見たいと思ってしまう。
浮き足立ったあの非現実的な世界にずっといたいなんて、自分が感じた苦痛さえも見て見ぬふりをしてまで願っていた。
「今日、時間いい?」
帰る直前、険しい顔をした稔が机に両手をついて僕を引き止めた。
頭に澪の顔がよぎった。
彼女を迎えに……。
……そうだ。もう迎えに行ったり一緒に帰る必要がなくなったんだ。
そう気付いたとき、ふと寂しくなる。
「うん。僕も、話したいって思ってた」
教室から人がいなくなるのを無言で待っている間の時間はほんの十数分だったのに、やけに長く感じた。
「……どっちから話す?」
いつも率先して話を始める稔は、今日は本当に苦しそうな顔をして黙りこくっている。
ただ事じゃない話が始まるのは、誘われる前から何となく察していた。
……その話を聞く心の準備は、まだできていなかった。
「祐朔が先のがいいと思う。きっと俺の話聞いたあとは、話す気なくなるだろうから」
「わかった」
何に対して申し訳なさを感じているのか、何度もごめんごめんと謝る稔と前後で座って向かい合う。
僕の話も、先に聞いたらあとから話す気がなくなるような内容だと思うけど、そんなことは言えなかった。
心の準備をする時間ができたことに、ほっとしているところがあったから。
ゴクリと唾を飲み込んで、深く息を吸う。
……聞く準備はできていなくても、話す準備は前々からできていたはずだ。
大丈夫。きっと、大丈夫。
自分にそう言い聞かせて、僕は震えながら口を開いた。



