Sun&Moon 真逆なキミに惹かれるワケ。



「ねーー!ゆーりはもう少しきいの言う事聞いて欲しいよ?てか話を聞きなさいっ。きいは御曹司なんだから!」


あーあ、うっざい。
また始まった幼い無邪気な子のような季威の脅し作戦。

ほんっとにこれが始まるとめんどいったらありゃしない。

まぁ今は俺が完全無視してたせいもあるか。


「……あーはいはい、失礼しました季威さま。」

心のなかで無理やり納得をさせ、適当に謝りをいれる。


「うんうんっ!でね、ゆーり今日は学校じゃなくて遊びに行こっか!」


……こんな適当な謝りで納得すんのかよ、ならさせる必要あるか…?


まぁ、それはいいとして……。



「……は?」

今、こいつなんて言った?



「うん?だから、あそぼーって!だって元々ゆーり学校着いても自分だけすぐ引き返してサボるつもりだったじゃん?」

「……ちげぇよ。」


そう悪態を吐きながらも、季威が言っていることすべてが図星だった。


んとに何なんだよ……ッ。

全てを見透かして、俺を振り回そうとするこいつにイライラが止まらない。


どうせ、こうなったら俺に拒否権なんてない。
今日は1日季威に振り回される。


……まぁ、どうせお墓は夕方しか行かないつもりだったしいいけど。



……でも、俺は限界だった。



もう……全てぶっ壊したいくらいに嫌だ。

うんざりだ。


❉❉❉


「ねー、ゆーり。」

「ん?何。」


その日1日振り回されに振り回された。

まず駅近くにあるボウリングから始まってその後、電車を乗り継いで海に行って幼い子供みたいに砂の城作った。

そして最後はジェラート屋に行ってアイスを食べた。


この統一感のない振り回しはなんなのか。
めちゃくちゃ謎だったが、逆らえるわけもなく一緒に遊んだ。
まぁ、1人でいるよりいい気分転換になった気もするが。


そして、今、そろそろお墓に行くからと季威と別れようとした時だった。




「いつまで……ゆーりは、あれが自分のせいだって考え続けるの?どれだけ自分で自分に傷をつければ気がすむの?」


「……っ!!」

耳にまで響くようにドクンッと心臓が嫌な音を立てた。



「……あれは、ゆーりのせいじゃないんだよ。」


……ッ、なんっで……こいつに断言されるんだよ……っ!!


目の前にフラッシュバックするのは、あの日のこと。
……そう、あれは事故だ。


「違う、俺のせい。」



……違う。あれは、全て俺のせいだ。

あの人たちは被害者で、俺は、加害者だ。


もう……俺は、あの人たちを親だと呼ぶ資格はない。
贖罪のために生きなければならない。
忘れなければならない。
……何より、あの人たちの子どもとしてあの人たちの隣に立って幸せを味わっていた日々を忘れたい。

ほんとは、遊ぶ資格なんてないんだよ……っ。


「じゃあ、今日一緒に遊んでられたの?」

「……?」

……は?遊んでられたってどういうことだ……?
何を問われてるかもわからない質問に顔をしかめる。


「今日行ったとこ、全部ゆーりが昔家族で行ったって俺に自慢してた所だよ。気づかなかった?」

「……っ!!っは……なんで…、」


「んー罪の意識から逸らさせるため?毎年この日はゆーりだけが傷ついてるの見てきたし、もううんざりだからね。」

やっぱり、全部わかってるんでしょ?なんて、季威は眉を下げて呆れたように笑っていた。

そんな彼はいつも違い大人びた顔つきをしていた。

まるで、俺だけを見ていた保護者のように。



「……っ。お前、何も考えてないバカなんじゃないのかよ……。」

お前はいつまでも、あのままで……幼い子どものように馬鹿げた行動を繰り返して、俺を振り回してれば……それで……っ。

「うーん。ま、その悪口はスルーしてあげるとして。そろそろ楽しい思い出を思い出して笑顔を浮かべたほうがいいんだよ。」

「はぁ……。」


「誰も、望んでないんだ。ゆーりがそんなのをすることを。」

俺のため息を勘違いしたのか、後追いをかけるようにそんな言葉をかけられる。

そのせいで俺はまた制御ができなくなる。

「……ッチ。ふっざけんな……っ!」

ほんっと、最悪だ。


「ゆーり__はっ?!」


この後の記憶はほとんどない。頭が真っ白のまま全て感情通りに動いていた。




「ほんと憎たらしい、お前なんて死ぬまで嫌いだよ。」




もう限界だった。
せっかく我慢してやってたのに。 

ずっと、ギリギリのところでコントロールして制御してたのに。

そんなの……、まじでありえない。



俺は強引に腕を引っ張って季威の唇に自分の唇を押しつけた。
深く押し付けて離れないように口づけをする。

……お前のこと、ほんとは一時も離したくねぇんだよ。




「〜〜っ。」

困惑した顔で息を切らしながらも、押し返されたりなど抵抗は全くなかった。
そのせいで俺はまた期待してしまう。

……ほんっと、俺の悪いとこ。



「……っは、…お前さ、なんで抵抗しねぇの?ばかなの?それとも勘違いさせたいの?〜〜はぁ、まっじでうっざい。」

自分でキスしておきながら、抵抗しない季威を罵るなんて自分勝手にもほどがある。

……これじゃあ、俺が季威のこと好きだと言っているもんだ。



「………っ。ね、ゆーりって、」

「違う、安心して。お前に興味は1ミリもねぇよ。ただ気が動転してただけだから。」

じゃあね、なんて呟いてテキトーに呟いて季威から背を向ける。

見たことのない焦ったような困惑顔、やっぱりバレていた。



こうなった以上………もう、あいつのそばになんて居られない。

んとにだから嫌だったんだよ……ッ!!

幼馴染という特権を使っていつまでもあいつのそばにいたかった。


ほんっとにふざけんなよ……。
そう思いながらも頭の何処かでは分かっていた。


もう、限界だったのだ。


俺だけを瞳に映して、俺のために動いてくれた季威を自分だけのものにしたくてたまらなかった。

ただでさえ両親の命日でいつもと精神的に違うのに、その上こんなことされてしまえばコントロールなんてできるわけがない。



俺はありとこの世に存在する全て感情を混ぜたかのような訳の分からない気持ちに襲われながら、お墓参りへと向かった。


……もちろん、お墓参りをしてもいつもと違って心ここにあらず状態だった。




もう、誤魔化しがきかないくらい、あいつに堕ちてる。



ねぇ……いつか、季威も俺に堕ちてよ。


なんて、願いだけが頭を支配していた。
❉❉❉


「……っは、う、そ……だろ。」

あの最悪な出来事から1年半くらいの今日。
高校最後の新学期が始まろうとしていた。

ちょうど今俺は玄関で新しいクラスを確認していた所だった。


…ふざけんな、こっちがどれだけの思いであいつから離れたと思ってんだ…っ。

……クソすぎる。ほんっと、このクラス編成を作った教師たちを呪ってやりたい。

本当に最悪だ……。




__俺の新クラス3年6組には、俺の名前とともに神田季威の名前もあったのだ。




「あーーっ!ゆーり、久しぶり!あと数年ぶりに同じクラスだねっ、楽しみだね〜っ。」

……はっ、何が楽しみだか。

大きな声を出し瞳をキラキラさせた季威が子犬のようにこちらへ走ってきた。



「そりゃよかったね。こっちはまたこのうるさい季威をお世話しないといけないと思うと頭が重いわ。」

……もう近寄ってこないでくれ、そう言いたくて言いたくない。
もう、おかしくなりそうだ。

「んー?きい、そんなゆーりに迷惑かけた覚えないなぁ。」

……確かにそれはそうかもしれない。 

「あーそうですか。」

真面目に答えるのもできなくなってきて適当にあしらい、校内へと入る。


……ッチ、うるさ。

季威の扱いがめんどくさくなったから中に入ったのに、季威はついてくるし、その上、中は耳をふさぎたくなるほどの悲鳴が辺りに響いて、まるでここはライブハウスだ。



あー……やっぱ、学校入んなきゃよかった。


理由は単純明快。俺が中に入ったこと、そして隣に季威がいるせいだ。

まぁ元々俺も顔が整っている方ではあり、告白も結構な数されているが、それ以上に顔は良く、明るくムードメーカー的存在の季威はモテる。

…あと、こいつ御曹司だし。
金目当ての女がみんなして近づいてくる。



「…はぁ、ほんとお前モテるよな。彼女でも作ればこのうるさいのなくなんじゃないの。」

めちゃくちゃ嫌味ったらしい言い方になったが、事実だ。
これだけモテるのに季威は彼女を作ったことがない。


……お前に彼女がいたらさっさと諦められんのに。



「きい、彼女なんていらないよ?作るわけないじゃん、だってゆーりと一緒にいる時間が減るし?」

……っ!!なんなんだこいつッ!!

その瞬間血が逆流したかのように体が熱く火照ってきて、心臓がおかしくなったように暴れ出す。


「……っ、は、そりゃどーもありがとうございまして。」

ばか、勘違いすんだろうが………。

俺は慌てて平静を装って返事を返す。
…このバカの話を真面目に受け止めたらダメだ。


「てかさーここ数年ずっと思ってたけど、ゆーりって満足に人の話聞かないよねっ。」

なんて、不満げに言う季威にそりゃそうだろ……、と内心ツッコむ。
いきなりあんな事言われてまともに会話なんてしてたらおかしくなるっつーの。


「……逆に聞くけどさっきの言葉もまともに会話するために言ってたわけ?だとしたら頭おかしいから。」

「もーーまたバカにしてる?きいのこと。」

「……はぁ。」


してないよ、本当はしたいけど。

ボコボコに罵って、季威が俺を嫌ってくれるくらいにね。




「やーーっぱ、だめかぁ。……もういっか。…ねぇ、ゆーり。」

「なに。」

誰もいない、教室に向かう途中の、2階の廊下。


「単刀直入に言うね、あの日のあの行動忘れたとは言わせない。あれは何だったの?」

「………っ?!」

静かな廊下に季威の珍しく真剣な声だけが響き渡る。


……あの日のあの行動、そんなの1つしかあるわけないよな。

なんで、今さら聞くんだよ……。


「もういーよ、始業式サボって本当のこと聞かせて。」

「は、」

俺は思わず目を大きく見開く。

季威がそんな事言うの初めて見た気がする。
気がするじゃなくて初めて見たんだ。

季威は一応家の名を背負ってるだけあるのか根はとても真面目な性格をしている。

俺みたいに授業サボるとか、遅刻とかも何一つない。


それなのに……たかがあれが気になるからってサボるか……?
いやまぁ、あいつにとってたかがじゃないからか。


……今思えばかなり悪いことをしたと反省してる。



それでも、あの時はどう頑張っても欲を抑えきれなかった__

❉❉❉


「で?誰もいなくなったしねっ、聞かせて?」

「………。」

本音を言ったら引かれるに決まってるわけだし……なにかそれっぽい言い訳をでっち上げるしかないが、こんな今すぐになんて思いつくわけがない。


「あ、もしかして答えないつもり〜〜?なら強行手段出よっか!」

うわ、普通に怖っ。圧がありすぎる……。

真っ黒い満面の笑みでそう言った季威に震え上がる。



てか強行手段って、また財閥の名を使うのかよ……。
また季威の脅しが始まる、そう思ったのに……



「……ッ?!」


こんなの、全くの予想外だった。



まるでデジャヴ。


あの時のようだ___




「俺は死ぬまで一生憂俐が大好きだよ。」



腕を引っ張られ、耳元で囁くように言われる。




「っ!!!はッ…?!」

なんて季威の言葉を飲み込んだ瞬間に発狂してしまった。
それと同時に唇に温かいものが触れる。


は……?
なに……これ…、は……?

脳が麻痺したように何が起こったのか上手く認識できない。

ただわかるのは距離が数ミリ程度くらいの、ほんとすぐ近くに季威の顔があること。


「ね、ドキドキした?」

……っ。


怖いくらい甘くて悪い小悪魔のような笑顔。

ぺろりと唇を舐めて、憂俐の唇あっまと呟いたところでやっとキスをされたと気づく。



「……っ、お、お前…ッ何がしたいの…?」

噛みまくってこれじゃあ動揺してますっていうのがバレまくりだ。
全くいつものポーカーフェイスが効かない。


「んー?だって、憂俐がほんとのこと言わないし?それでもさ、もしかしたら同じ気持ちかもしれないって思ったら誰でもアタックするよね〜っ。」

「……は?」


同じ気持ち……?


いつも何一つ"同じ"になれなかった俺らが……?