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「空太!今日部活休みでしょう?一緒に帰ろう」

 一組の教室まで行くと、空太は椅子に座りクラスの男子達と楽しそうに話をしていた。

「あれー?二組の女子じゃん」

「幼馴染みちゃんだっけ?」

「いいなー!可愛い幼馴染み俺も欲しい」

 そんな声が聞こえてくるが、空太はそれを無視して立ち上がった。

「帰るぞ」

 素っ気ないが、一緒に帰ってくれるようだ。私は嬉しくて空太の後ろをついていった。

 校門を出ると蝉の鳴き声がうるさいくらいに聞こえてくる。少し歩いただけで汗が滲み出てきて、それを手で拭った。

「熱いね。もうすぐ夏休みだけど、空太は部活だよね?」

「ああ、そうだな」

 相変わらず素っ気ない返事しか返ってこないが、それでも良かった。

 空太の隣を歩けるだけで嬉しくて仕方が無いのだから。

「公園寄って行こうよ。小さいときに行った公園覚えてる?」

「めんどくせぇー」

「いいじゃん!少しだけ、ね?」

 空太の腕を無理矢理に引っ張り、公園へと向かって歩いた。

 懐かしい見覚えのある道。

 ここを曲がると自動販売機があって、いつもそこでジュースを買ってから公園に行っていた。自動販売機の前まで来ると、空太が立ち止まる。

「何にする?」

「えっ?」

「ジュース、飲むだろ?」

 ジワリと胸が温かくなる。

 覚えていてくれた。

 それが嬉しくてはにかみながら私は答えた。

「オレンジジュース」

「だと思った。おまえいつもそれな」

「へへ……好きなんだもん」

「ほら」

 オレンジジュースを手渡せれ、とびっきりの笑顔を見せる。

「ありがとう」

「おっ……おう」

 空太が照れくさそうに、頬を掻いた。それは空太の癖で、恥ずかしいときや照れているときにする動作だ。まるで子供の頃に戻ったみたいで嬉しくなる。

「向こうにベンチがあったよね?行こう」

 早く早くと、空太をベンチの前まで引っ張って来た時だった。空太がピクリとも動かずに、一点を見つめているのが分かった。

「空太?」

 空太の視線を追いかけて、視線をたどっていくとそこには……。

 瑠璃と……先輩……。

 二人は仲良く見つめ合い、ゆっくりと顔を近づけていく。

 空太、見たらダメ!

 私は空太を引き寄せるとベンチに無理矢理座らせながら抱きしめ、視界を塞いだ。空太は呆然とした様子でされるがままになっている。相当ショックだったのだろう。私に抱きしめられているというのに何も言ってこない。

 私はどうしたらいい?

 私に何が出来る。

 振られた時のショックは私が一番知っている。

 告白する前に振られるショックは……。

 空太を抱きしめる腕に力を込めると、空太がボソリと呟いた。

「茜は知ってたんだな……」

 瑠璃が先輩と付き合っていたこと?

 それとも空太が瑠璃を好きなこと?

 どちらかは分からないが私は答えるしかない。

「うん……」

「そっか……」

 空太はそれだけ言って、黙ってしまった。

 泣いているんだろうか?

 そっと抱きしめていた腕を緩めると、唇を噛みしめて涙を堪える姿が目に入る。空太のそんな姿を見て、私の中に悲しみの感情が流れ込み、心臓を握りつぶされたみたいに痛くなる。

「空太……」

 空太の名前を呼ぶと、私の瞳から涙がこぼれ落ちた。ポタポタと止めどなく落ちる涙は空太の頬や手を濡らしていく。私の涙に気づいた空太は驚いた様にこちらを見た。

「何でお前が泣いてんの?」

「……っ……くっ……そんなのっ……空太が……っ泣かないからじゃん!っ……そんな顔……っ……」

 空太……そんな悲しいそうな顔をしないで。

 私に今出来ることは何?

 少しでも心を和ませる言葉は何?

 どうしたら空太は笑ってくれる?

 私の大好きな空太。

 あなたが悲しむ姿は見たくない。

 空太はこんなにも悲しんでいるというのに、私の中にある空太への想いが溢れ出す。

 空太の素っ気ないところも、優しいところも、不器用なところも、私は全部知ってる。私はそんな空太が大好きだ。

 私で気休めになるなら……私を使って欲しい。

 傷ついた空太にこれを言うなんて卑怯だと分っている。

 弱っている時にこんなこと……それでも言わずにはいられない。

「空太……好きだよ。……っ……ずっと、ずつと大好きだよ。……くっ……これから先もずっと大好き。ずっとっ……側にいるから……私にしなよ……私を利用してっ……っ……いいから……」

 空太は私からの告白を黙って聞きながら「うん……」と静かに答えた。

 弱みにつけいる形になるが私は空太に、もう一度告白した。

「空太……大好きです。私と付き合って下さい」

 それを聞いた空太は一瞬目を見開いてから、スッと表情を戻した。

「いいよ……」