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 入学してまだ2ヶ月だというのに、学校行事である体育祭が行われるのだと担任教師がホームルームで説明を始めた。クラスの団結力を深めるための行事で、これから実行委員を決め、各自が出る種目を決めるのだという。運動部がメインで進められるこの行事に、私はあまり乗り気では無い。昔から運動は苦手だし、体を動かすのは好きでは無い。それでも中学の頃は体育祭が好きだった。それは陸上部である空太の走る姿が見られるからだ。

 姿勢の良いフォームで颯爽と走る姿は、ホントに格好いい。私はそんな姿をキャーキャー言いながら見ていた。しかし今年はそんな気持ちになれるだろうか……。

今日も少しだけ離れた距離に空太がいる。ぶつからない程度の、幼馴染み距離……もどかしい距離。今日も私を見ずに前を向く空太に瑠璃の話をすれば、私の方に視線を向けてくれるため、話したくも無いのに瑠璃の話をしてしまう。

「クラスカラーはオレンジでね。私は玉入れと、ダンスをするんだけど、瑠璃は障害物競走とダンスなんだよ」

「へー……障害物競走とダンスか」

 空太が確認するようにボソリと呟くのを私は聞き逃さなかった。きっと私の出る競技については、もう忘れているんだろうな。そう思うと、ズキズキと胸が痛んだ。

 放課後……私はダンスの練習のため、クラスメイト達を集め練習を開始した。まだ話をしたことの無かったクラスメイトとも仲良くなり、楽しく練習していると、外が騒がしくなった。皆の視線が外へと向いたため、私も視線を外に向けると、そこには空太の走る姿があった。誰よりも早く走る姿に歓声が上がる。

「2組の林野空太くんだっけ?足が速いんだね。しかもイケメン!」

「そうそう。先輩達も話してたよ。一年に格好いい子がいるって」

「そう言えば茜は空太くんといつも登校してるよね?付き合ってるの?」

 皆の視線が私に向けられ、私は首を横に振った。

「違うよ。空太は幼馴染みなんだ」

「空太くんが幼馴染みとか最高じゃん!恋が始まる予感しか無い!」

 それなー!と皆が会話するのを、私は曖昧に笑うことしか出来ない。

 恋なんて始まらない。

 始まるわけが無い。

 今日もズキズキと痛む胸をグッと右手で押さえる。

 空太にとって私はただの幼馴染み。

 空太の思い人は私では無いのだから……。