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 空太が恋に落ちた次の日、今日も空太の隣を歩く。

 一方的に私が喋ると、いつもと変わらない素っ気ない返事を返してくる。何も変わらない朝の会話。昨日のあれは勘違いだったのでは?そう思った。そこで思い切って瑠璃の話をすると、空太の表情が変わった。先ほどまでつまらなそうにしていた表情を一変させ、こちらに視線を向けてくる空太。やはり勘違いでは無かった。瑠璃の話に「ふぅーん」と反応してはこちらに顔を向けてくる。

 違うよ空太。

 そんな顔で私を見て欲しいんじゃ無い。

 空太は私を見ながらその先にいる瑠璃を見ている。

 それが悲しくて俯きながら私は瑠璃の話をした。

 バカだな……こんなに悲しいのに、自分の話を聞いてくれるのが嬉しいなんて。
 
 矛盾している……。

 こんな日が毎日続くんだろうか……。

 空太の隣にいるのに、悲しく辛い日が続いた。

 空太を想うと眠れない……。

 そんなある日、空太がそれに気づいた。

「おまえどうした?目の下クマが出来てるぞ?」

 そっと手を伸ばされ、目の下を空太の手が触れる。

 空太が私の変化に気づいてくれた。

 私を見てくれている。

 嬉しくて、嬉しくて、私は『大丈夫だよ』と言おうとして、息を呑む。空太は私を見ていなかった。私に触れながら、私の横にいる瑠璃を見ていた。

 なんで……。

 どうして……。

 酷いよ。

 心の奥底でモヤっとしたドス黒いもの広がり、感情的に空太の手を払いのけた。パンッと乾いた音が鳴り、一瞬静寂が訪れる。私はハッとして空太を見ると、空太は驚いた様な顔をしてから、私から視線を逸らした。

「可愛くねえな」

 その言葉が私の胸に突き刺さる。

 どうして私にはそんな言葉しかくれないの?

 可愛くない……ホントにその通りだ。

 分ってるけど……。

 こんな態度を取って、ホント可愛くないって分ってるけど、瑠璃にたいする嫉妬から酷い態度をとってしまった。顔を伏せる私を心配して瑠璃が手を差し伸ばしてくれた。

「茜……大丈夫?」

 優しい瑠璃。

 瑠璃が嫌な子だったら良かったのに……。

 そうじゃないから胸が苦しい……。

 勝手に瑠璃に嫉妬してごめん。

 心配させたらダメだ。

「ん……ごめんね。大丈夫だから心配しないで」
 
 瑠璃は本気で心配してくれているというのに、こんな顔をしていたらダメだ。私は顔を上げると、にっこりとを微笑んだ。