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夏祭り当日。
私はお母さんに浴衣を着付けてもらい、待ち合わせの場所へと急いだ。紺色の浴衣には百合の花が咲き誇り、少し大人っぽいデザインだが、高校生になったのだからと、母がこれを進めてくれた。髪飾りも少し大人っぽいモノを選び、高い位置でまとめた髪に後れ毛を出した。
可愛いって言ってくれるかな?
私は着慣れない浴衣に苦戦しながら、空太の待つ場所へと急いだ。
「空太お待たせ」
空太の前まで行くと、空太は驚いた様な顔をして私を見た。
「どう……かな?」
「まあ……いいんじゃね」
言わせた形になったが、褒めてくれた。
嬉しくて両手で頬を包みながら笑っていると、空太が頬を掻きながら手を差し出した。
「ん……」
「え?」
「手……」
手?
それって……。
そっと手を差し出すと、空太は私の手を握り歩き出した。
「迷子になると面倒だからな」
素っ気ない言葉だが、前を向いたままの空太の耳はほんのり赤くなっていた。そんな空太の反応が嬉しくて、私はニマニマする顔をどうすることも出来なかった。
それから私達は屋台を見て回り、焼きそばやたこ焼きを食べながら、メインである花火が始まるのを待った。花火が見えるメイン会場までもう少しの所で、右足に違和感を覚える。
それにいち早く気づいたのは空太だった。
「茜、足どうした?」
「あっ、履き慣れない草履で痛くなっちゃった」
「ハンカチ濡らしてくるから、少しここで待ってろ」
「うん……」
近くにあったベンチに座り、空太が戻って来るのを待っていると、大学生くらいの男性二人がやって来た。
「あれー?きみここで何してるの?可愛いね。友達待ち?」
男二人に囲まれ怖くて声を出せずにいると、無理矢理手を引かれた。
「止めて下さい。彼氏を待っているんです」
「えー?彼氏なんていないじゃん。一緒に遊ぼうよ」
男性に力強く引っ張られると、女子の力ではどうにも出来ない。
やだ……連れていかれちゃう。
怖い……。
恐怖で体を震わせると、それを見た男達が笑い出す。
「あれー?震えてる?かっわいー。きみホント可愛いね」
男がそう言って、私を抱き寄せようとしたところで、空太が戻ってきた。
「あんたら何?そいつ俺の連れだから」
「あ?何だ?ホントに男がいたのかよ」
チッと舌打ちをして、ばつが悪そうに男達は去って行った。
「怖かった……」
張り詰めていた息をそっと吐き出すと、空太が私の体を抱きしめてきた。
「少し目を離した隙に……心配させんな。焦るだろうが」
「焦ったの?」
「当たり前だろ。連れて行かれるかと思った」
「あはは、私も連れて行かれるかと思った。怖かった」
「怖い思いさせてごめん。もう俺から離れるなよ」
俺から離れるな……。
そんな空太の言葉が嬉しくて、私はニッコリと笑った。
「私は空太から離れない。約束したから……私はずっと空太の隣にいるよ。ずっと、ずぅっと、空太の隣が私の場所だよ」
それを聞いた空太の顔が赤くなるのを、私は真っ正面から見てしまった。
「お前そう言うことよく言えるよな」
赤い顔をした空太を前に、私の顔もつられて赤くなる。
「ほっ……本当の事だから」
空太がフーッと息を吐き出すと、いつものクールに戻った顔で、こちらを見つめてきた。その瞳には熱がこもっていて、いつもの雰囲気とは何かが違う。
これは……。
私の喉がコクリと鳴ると、空太の顔がゆっくりと近づいてくる。
あっ……唇が触れる。
どちらから共無く目を瞑り、重なり合う唇。
それと同時に花火の上がる音が聞こえてきた。
私のファーストキスは、夏祭り……花火の音が響き渡る中での事だった。


