ベストリア領から帰ったら、いつも通りの軍や教会施設の治療をしつつ、たまに森に行ってダークシャドウの浄化をしていました。
 そして、今日はいつもと違う場所を浄化することになりました。
 いつも通り王城から来た馬車に乗ったんだけど、オラクル公爵家を出て僅か数分で目的地に着きました。

 どよーん。

「こっ、これは、貴族の屋敷?」
「そうだ、貴族の屋敷だよ」

 目の前の状況に圧倒された僕の呟きに、ヘンリーさんが苦笑しながら答えてくれました。
 確かに目の前の屋敷は貴族が住むに相応しいのだけど、ダークシャドウまではいかないけど屋敷から淀みが溢れていた。

「淀みの原因は様々だが、条件が一致すればこういうところでも発生する。例えば、人の恨みだったり殺人事件が起きたりだな。ここは、当主に殺害された使用人の恨みが漂っている。誰も住んでいないから、王城で管理している」
「ヒィィィ!」
「キュー!」

 ヘンリーさんの説明を聞いた僕たちは、思わず抱き合って声をあげちゃいました。
 目の前の屋敷で、そんな事件が起きていたなんて。
 こんな屋敷には、誰も住みたくないですよ。
 女性陣も、心なしか顔色が良くないですね。

「も、もしかして、暗黒魔法が発動したら、この淀みがダークシャドウになると……」
「間違いないだろう。というか、私でも感じる程の淀みだからな」

 これは、思ったよりも大変な事ですね。
 周りは普通に貴族の邸宅だし、王城にもとても近い。
 一刻も早く浄化をしないと。
 僕たちは、意を決して屋敷の敷地に入りました。

「では、今のうちに魔力を溜めておいてくれ。玄関を開けたら、一気に浄化だ」
「はい、頑張ります」
「キュー!」

 僕たちが魔力を溜めている間に、近衛騎士が玄関に付けられた複数の鍵を解錠していきます。
 というのも、誰も住まない屋敷に勝手に人が入らないようにとしているんだそうです。
 その間に、僕とスラちゃん、それにドラちゃんは十分な魔力を溜めました。

「ヘンリーさん、大丈夫です」
「よし、それじゃあ最後の鍵を開けるぞ」

 ガチャガチャ、ガチャ!
 ギギギギ。

 ヘンリーさんの指示で、近衛騎士が本来の玄関の鍵を開けました。
 ゆっくりと玄関ドアが開いていくけど、もう嫌なものが漏れ出ているよ。
 僕たちは、玄関の隙間から一気に魔法を放ちました。

 シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!
 ズゴゴゴ!

 思ったよりも淀みの抵抗が凄くて僕たちも押され気味だけど、それでも少しずつ確実に浄化は進んでいきました。
 そして、魔力の残りがギリギリのところで何とか浄化完了です。

「はあはあはあ、な、何とか浄化が終わりました。とんでもない抵抗でした……」
「キュキュ……」

 ぺたりと座り込んだ僕の上に、スラちゃんとドラちゃんも乗ってきました。
 僕とドラちゃんは大汗をかいていて、喉もカラカラです。
 アイテムボックスからタオルと飲み物を取り出して休んでいると、シンシアさんがとんでもないことを言ってきました。

「流石はナオ君たちの浄化魔法ね。王都でも一、二を争う程の幽霊屋敷を浄化するなんて」

 あの、いま王都でも一、二を争うって言いませんでしたか?
 チラリとヘンリーさんを見上げると、「ああっ」って手をぽんとしていました。

「ごめんごめん、説明が抜けていたよ。正確には、王都でも最強クラスの淀みのある屋敷だ。しかし、流石はナオ君たちだ。この屋敷を浄化してしまうとは」
「説明省き過ぎです!」
「キュー!」

 僕たちは座りながら手を挙げてぷんぷんと抗議したので、流石にヘンリーさんも謝ってくれました。
 だから、ここまで魔力を使っちゃったんですね。
 とはいえ、まだヘロヘロなので玄関の端で僕達は休んで、他の人で屋敷の中を確認する事になりました。
 護衛を兼ねて、エミリーさんが残ってくれました。

「ナオ、お疲れ様。ゴメンね、私たちも淀みの圧力を受けていて言葉少なくなっていたのよ」

 僕の横に座ったエミリーさんが、素直に謝ってきました。
 そういえば、今は全然平気だけどさっきまでは凄い圧力がかかっていたよね。
 そう考えると、普通に説明していたヘンリーさんはやっぱり勇者様って言われる程の強さを持っているんだ。

「それに、淀みの由縁を聞いちゃうと後ずさりしたくなるわ。その点でも、頑張って浄化したナオ君たちは凄いわよ」
「キュー」

 シアちゃんも加わって僕の膝の上で休んでいるドラちゃんを撫でていたけど、僕も話を聞いた時は悲鳴をあげちゃったっけ。
 こうして三十分ほど休んでいたら、シンシアさんが玄関に戻ってきました。
 残念なお知らせとともに……

「ナオ君、残念だけど実は各部屋に少しだけ淀みが残っていたわ」
「ええー! もう、魔力は残り僅かですよ」
「ええ、私も分かっているわ。この程度なら、後日に回しても問題ないわ。今日は施錠して帰って、もう一回出直しましょう」

 シンシアさんの話を聞いて、僕たちは思わずとほほって思っちゃいました。
 それに、全てを浄化できないなんてまだまだ魔力制御が下手っぴですね。
 こうして、今日の浄化を終えて活動終了しました。
 ちなみに、ヘンリーさんの公務スケジュールの関係上翌日リベンジとなり、屋敷を全て浄化しおえました。
 でも、まだ魔力が残っていたので追加でもう一軒浄化しました。
 というのも、王都にはまだ数件淀みのある屋敷があるそうです。
 そして、屋敷は無事に売却され、一部の売却代金が浄化をした僕のところに入ってきました。
 うん、大金だから暫くはアイテムボックスに死蔵ですね。