宿のお金の問題は取り敢えず解決したけど、今夜僕とスラちゃんが泊まる場所はどうしようか。
 お金もないし、どこかで野宿をするしかないのかな。
 そう思っていたら、ヘンリーさんが明日の事を話してくれました。

「ナオ君、明日は近隣の村に移動して調査を行う事になっている。悪いが付き合ってくれ」
「頑張ります!」
「ふふ、そんなに意気込まなくても大丈夫だよ」

 僕が勇者パーティに入って、初めてのお仕事です。
 僕とスラちゃんがふんすって拳を握って気合を入れたら、ヘンリーさんが思わず苦笑しちゃったよ。
 そして、今夜どこに泊まるかという問題もあっさりと解決しちゃいました。

「ナンシー、ナオ君を屋敷に泊めてやってくれないか?」
「もちろんだよ! ふふふ、ナオ君の事をぎゅっとしながら一緒に寝ちゃおうかな? 凄く楽しみだわ」

 な、何だかナンシーさんが不穏な事を言っているけど、きっと大丈夫だよね?
 という事で、今夜はナンシーさんの屋敷に泊まることになりました。

「ナンシー、とても羨ましい……」

 シンシアさんがジト目でナンシーさんの事を見ているけど、僕だって流石に王城に泊まるのは無理ですよ。
 何にせよ、この後の対応が決まったので今日は帰ることになりした。
 あっ、そうだ、お礼を言わないと。

「おばちゃん、会長さん、色々とありがとうございます」
「いいのよ。また近くに来たら顔を出してね」
「頑張るのだぞ。何かあったら、遠慮なく相談するんだぞ」

 僕とスラちゃんは、手を振りながら宿を出ました。
 宿のおばちゃんと宿組合の会長さんにも、また会いたいな。
 そして、貴族街に向かって歩き出しました。

「今日は、僕が思ってる以上に多くの人に助けられました」
「元からナオ君はとても礼儀正しいし優しいから、冒険者も何とかしたかったんだよ」
「見た目も髪色もとっても可愛いし、女性冒険者はナオ君をかまいたくて仕方なかったんだよ。最初は、馬鹿な三人のところに美少女がいるって噂になったのよ」

 なんと言ってもヘンリーさんに助けられたし、僕の両側にいるシンシアさんとナンシーさんにもとっても助けられました。
 色々なものを失っちゃったけど、その分得たものも沢山ありますね。
 みんなでお喋りをしながら歩いていき、ナンシーさんの屋敷に到着です。

「す、凄い。こんなに大きいお屋敷だなんて。しかも、王城の直ぐ側です」
「歴史だけは古いからね。王城に近いから、よく遊びに行っていたんだよ」

 言葉の比喩じゃなくて、本当にドーンと大きな柵に囲まれて大きなお庭がある屋敷でした。
 ナンシーさんが頬をポリポリとしながら話していたけど、王城とも目と鼻の先です。
 勇者パーティの人々は、とんでもない人たちだと改めて思いました。

「じゃあ、私はこれで失礼するよ」
「ナンシー、ナオ君、また明日ね」
「またね!」
「今日は色々とありがとうございました」

 ヘンリーさんとシンシアさんと別れて、僕とスラちゃんはナンシーさんの後をついていきながら屋敷に入りました。
 うん、門から屋敷までとっても距離がありますね。
 ようやく玄関にたどり着いたけど、玄関だけで僕の実家がスッポリ入りそうなくらいだよ。
 綺麗な石造りの屋敷で、とても品の良い彫刻も飾られています。
 庭にも植物が沢山植えられていて、沢山のお花が咲いていました。

 ガチャ。

「ただいまー。ナオ君連れてきたよ」

 そして屋敷の中に入ったけど、これまた凄いよ。
 天井もとっても高くて、シャンデリアからキラキラと光が降り注いでいたよ。
 赤色の絨毯が建物の奥まで敷かれていて、ところどころに大きなつぼや鎧に絵が飾られていました。
 ナンシーさんが玄関から声をかけると、メイド服を着た使用人がやってきました。
 とてもできる人って感じの動きです。
 僕もスラちゃんも、ポケーってしちゃいました。
 うん、別世界に来たってこういう事をいうんだね。

「お嬢様、お帰りなさいませ。ナオ様を、応接室にお連れします」
「宜しくね。私も着替えたら直ぐに行くよ」

 ナンシーさんは自室に向かっていき、僕とスラちゃんは使用人の後をついて応接室に案内されました。
 廊下を歩くだけでも、すごい緊張するよ。

 ガチャ。

「こちらが応接室になります。ナオ様、どうぞソファーにお座り下さいませ」
「はっ、はい」
「紅茶をお持ちしますので、少々お待ち下さい」

 僕は、使用人に言われるがままにソファーに座りました。
 な、なにこれ!
 ソファーに座ったら、僕の体が沈んだよ。
 とってもふわふわのソファーで、凄くビックリしちゃった。
 スラちゃんも僕の肩から降りてきて、ソファーの柔らかさにビックリしていました。

「紅茶をお持ちしました。熱いのでお気をつけ下さい」
「はっ、はい。ありがとうございます」
「それでは、少々お待ち下さいませ」

 僕の目の前にとても高価だと思われるティーセットが置かれて、紅茶の湯気が立っていました。
 せ、せっかくだから飲んでみようっと。
 わあ、とっても美味しいよ。
 今まで何回か紅茶を飲んだ機会があったけど、比べ物にならないくらい美味しい。
 紅茶って、こんなに美味しいんだね。