中庭に向かう途中、診察室に差し掛かる。

前を素通りしようとした瞬間、診療室の一つのドアが開き、人が出てくる。

扉から出てくる人と偶然目があった。

「「えっ…」」
すると、思わず、僕とその人は声が出た。

その人は僕と目が合った途端、急いで持っていた鞄で顔を隠すが、僕にばれて
いることに気づき、苦笑いで鞄から顔をはずす。

「えっへへ……。こ、こんにちは。鬼塚君」

そう、その人は天照さんだった――。






彼女の申し出で僕らは診察室前から移動する。

向かった先は図書室だった。

この病院には小さいが図書室があり、人気のない薄暗い場所だった。

机を挟んで、向かい合うように椅子が二つずつ均等に並べられており、その中
の一つのセットに僕らは腰掛ける。

「えっと、鬼塚君…であってるよね?」

座った途端、天照さんが急に話しかけてくる。

「え…。あ! うん…」

僕は久しぶりに家族以外の、しかもクラスの人気者に声をかけられ、驚いてし
まい一瞬動きが止まってしまった。

「鬼塚君はどうして病院に?」

天照さんの質問に困ってしまう。

自殺しようとしたから、なんて重い話彼女にできるわけない。

嘘をつくか? いや、でも……。

一人で自問自答していたら、なにを感じ取ったのか、天照さんが僕に質問をや
める。

「あ、ごめんね。答えにくいよね。こんな質問」

「逆に、何か私に質問ある?」

これは…質問した方がいいのだろうか。

聞いてくれているのだし、答えてくれるかは別として、質問してみよう。

「あ…天照さんは…ど、どうして病院に来たんですか…?」

聞き方がたどたどしくなってしまったが、これが今の僕の精一杯だ。

「うーん…」