朝、少し早めに起き、本を読む気にもなれずにリビングに行った。
 するともうお母さんは起きていて、弁当や朝ご飯を作っているところだった。

 「……おはよう」
 「おはよう、ご飯はあと少し待って」

 うん、とうなずいて洗面所に向かった。
 まだぼんやりとしている頭がだんだんとはっきりしてきた。
 顔を拭いてリビングに戻ると今度はテレビがついていた。

 朝ごはんまでの時間、とくにやることがないので、ソファに座ってじっとテレビを眺めた。

 交通事故だの、山火事だの、朝からよくないニュースばっかりだ。

 いつの間にか朝ごはんを片手に隣に来ていたお母さんが「高校生の子、亡くなっちゃったのねぇ」とテレビを眺めながらつぶやいた。

 交通事故で車にはねられ死亡。亡くなってしまった人は、私と同じ高校2年生だった。
 事故とか事件って、一生関与しないものだと思ってきたけど、実際にはかなり身近な話なんだと考えるとぞわっと鳥肌が立った。

 するとお母さんは手に持っていた朝ご飯を机に置きながら、「そんなの無理、耐えられない」と一人で言っていた。

 「ありえない……冴と同じ年代の子が……。冴とかお兄ちゃんにこんなことあったら……」
 「え」

 自分の耳で聞いたことが信じられなくて、思わず声が出た。

 「冴、交通事故なんて身近なんだから気をつけなさい」
 「う、うん……」

 茫然とテレビのニュースを眺めながら、とりあえずうなずいた。
 それで精いっぱいだった。

 私って、しっかりお母さんに大切にされていたんだ。
 今までお兄ちゃんばっかりで、全然こっちを見てくれなくて、いつも私には厳しくて……期待はずれな子供で邪魔なのかなって思って悩んできたのに。
 ずっとずっと、私なんか……って思ってたのに……。

 お母さんは、きっと、今までもずっと私を思って育ててきてくれた。
 思っていたことは……絶対に言葉に現れる。

 「冴? 用意できたから食べなさいよ?」
 「……お母さん」
 「何……?」
 「いつも、ありがとう」

 始めて言えた。『ありがとう』の、今まで絶対に言えなかった5文字。

 お母さんの目を見て言うはずだったけど、急に気恥ずかしくなって目をそらしながらだった。
 だけど、たったその一言だけなのに、なぜかお母さんが涙を見せた。

 「冴ったら、急に何言いだすのよ……」

 それを見ていたらなぜか私まで泣けてきてしまい、リビングに二人の嗚咽が響いた。

 すると、今日は休みのはずのお兄ちゃんが起きてきて、私たちの方を見て「え、どうした? 大丈夫?」と驚きながらこっちに駆け寄ってきた。
 珍しく焦っているお兄ちゃんが面白くて、お母さんと目を合わせて笑ってしまう。

 するとますます意味が分からなくなったのか、お兄ちゃんは困り果てたように笑った。