夜、お兄ちゃんが帰ってくるのと同時に私は自室に引きこもった。
 下からお母さんが何かを言っているのが聞こえた。でもここで返事をするとめんどうなことになるので、宿題をしていることにして無視する。
 こういうところ、よくないよねと分かっていても、どうせお母さんからの話は勉強関連だ。
 テストはどうだったの、次のテストはいつ、塾の方はどうなの、って質問攻めにされるのはもう何度も経験していた。

 最近お兄ちゃんの話は聞かないけど、お母さんの機嫌がいいのでたぶんうまくいってるんだと思う。最近あった模試でも学年トップだったとか。
 いいなぁ、なんでそんな恵まれてるんだろう。
 何一つ取り柄がなくて、怒られている私とは正反対のお兄ちゃん。
 小さい頃は自慢のお兄ちゃんだったし、今でも尊敬はしているけどなんで比べられる存在になってしまったのだろうという疑問がいつまでたっても消えなかった。
 きっと私の全てはお兄ちゃんによって吸収されてしまったのだ。そして悪いところだけが私の方に集まった。

 お兄ちゃんはなんでもできる。
 周りから期待されるって、どんな感じなんだろう。いいなぁ、いいなぁ。

 人間は自分が持っていないものを欲しがるけれど、やっぱりそれは本当だ。
 一度でいいから、自分のやりたいことを思い切りできるくらいの力をもって、なんでもできる人間になってみたいと思った。


 ごろんとベットに寝っ転がって、煌々と光っている電気を見て目をつぶった。

 上手くいかない。ホント、何もかもうまくいかない。
 鷹野くんとはケンカしたし、この頃勉強も全くやる気になれなくて、宿題は何とかこなしているものの、いつもよりも勉強量は落ちていた。
 その代わりにいつの間にか本を手に取ってしまっていて、気がつけば時間は過ぎていた。

 日付が変わったのを見届けて、ふわりとあくびをする。
 眠い、眠いけど寝ちゃいけない。まだやらないといけないことが、たくさんあるから……。

 でも、私が思っていたよりも体はずっと疲れていたようで、電気を消して目をつぶった瞬間に寝てしまった。