透明な夜を彷徨う

 夜は、嫌いじゃない。
 でも、少しだけ怖い。

 カーテンの隙間から漏れる街灯のオレンジ色が、天井に淡く揺れている。
 窓の外を流れる車のライトも、スマホの画面も、目を細めればすぐにぼやけてしまう。
 耳が妙に冴えて、時計の秒針や、布団の擦れる音までもが気になってしまう。

 そんなとき、ふと思う。
――私って、ちゃんとここにいるんだろうか。

 昼間、誰かと笑っていた気がする。
教室の自分の席に、ちゃんと座っていた。
 でも、あのときの私は、本当にそこにいたのかなって。
 ふとした瞬間、自分の輪郭がぼやけていくのを感じる。
 透明になっていくみたいに。

 誰にも気づかれず、そのまま消えてしまっても、世界は変わらず回っていくんだと思う。
 ちょっとだけ寂しいけれど、それが当たり前なんだって、どこかで納得している自分がいる。

 ……それでも。
 それでも私は、明日も学校に行く。
 朝が来たら、制服に袖を通して、鏡の前で前髪を整えて、ちゃんと笑って、誰かの隣に立とうとする。

 それが意味のあることかどうかなんて、まだわからない。
 でも、わからないままでいようと思う。
 ――わからないからこそ、少しだけ希望が残る気がするから。

 夜は、明ける。
 それを、私は信じてみたい。