『もう少しで、一学期の期末試験が始まりますね。部活動も休止期間になりますし、少しの間、貴方ともお話しが出来なくなってしまいます』

『部室で勉強するとか』

『先生が鍵を貸してくれませんよ』

『それはそうか。先輩は特に受験生ですし、その辺り先生は許さないですよね』

 うちの学校は、男女共通で学年毎に上履きの色が違う上、女子は特に紐ネクタイの色でもそれが分かる。一目で、こいつ何年だな、と分かってしまうのだ。
 三年だと分かる相手である先輩に、むざむざ鍵を渡すような真似はするまい。

『テスト期間中の部活動の休止って、うちの高校は何日間なんですか?』

『試験前一週間から試験の五日間を含む、計十二日間となります。凡そ二週間ですね』

『半月も交換日記が出来ないのは、少し寂しいですね。何だかんだ毎日続けてるから、習慣みたいになってますし。下駄箱に入れてやり取りするとか?』

『誰かとの噂でも立てられて、貴方が不快な思いをなさらないのであれば構いませんけれど。ラブレターのようですし』

『俺は別に何でも良いですけど、そうなったら先輩にも迷惑がかかりますもんね。というか、それ以前に先輩は受験生だし、俺もそこそこ頑張らないとですし。日記も、一旦お休みですかね』

『そうした方が賢明かも分かりませんね。私も、聊か寂しい思いですが』

 付け加えられた言葉が、どれだけの意味合いを孕んでいるのかは分からないけれど。
 正式に『友達』というやつになった日から、早ひと月ほども経過しようとしているのだ。
 少しくらい、大きく一歩、踏み込んでみようと思う。

『先輩、帰りってどっち方面ですか?』

 校門を出たところで、道は左右に分かれている。
 うちの学校で『どっち方面』と聞く時には、大方その左右の分かれ道で答える。
 右は電車を利用する人が多い方面で、左は比較的近くに住んでいる人が向かう方面だ。
 無論、進展の具合は、先輩の歩幅に合わせるつもりではある。
 けれど、その期末試験も終われば、次に待つのは夏休みだ。
 日記上の友達も、一月半程は自ずと休みになる。

『私は左です。徒歩で二十分ほどでしょうか』

 左、か。左なら丁度いい。

『俺も左です。徒歩三十分の距離で』

 一度、そこまで書いてから、半分程消して書き直す。
 回りくどい言い方は、しない方が良いと思った。

『俺も左なので、もしお邪魔でなければ、途中まで一緒に帰りませんか? 試しに、明日だけでも』

 翌日の返事を待つのが、緊張と不安でソワソワしたけれど。

『私は構いませんが、気の利いたことは話せないと思いますよ。日記のようにはいかないこと、よくよくご存じかとは思いますが。それに、貴方のお友達は? 一緒には帰られないのですか?』

 意外にも拒否をされなかったことが少し嬉しくて、俺は心の中で拳を握った。

『気の利いたことなんて話さないのが友達ですよ。それに俺、仲の良いやつらは皆電車通学なので、基本一人か、いても姉だけなんですよね』

『そうですか』

 短い文章の後、恥ずかしさと躊躇いでも表しているかのように一行空けて、

『では、よろしくお願い致します。校門の外で待ち合わせましょう』

 どこか走り書いたような、感情の乗ったとでも言うような文字で、そう括られていた。
 明日から、部活は一時休止期間。
 その初日とも呼ぶべき日に、俺たちは、お試しで一緒に下校する。
 なんだろう……姉以外の異性と歩くのが、初めてだからだろうか。
 自分で誘っておいて、今更ドキドキして来た。