「へい、そこの優等生」

 帰り支度をしていた背中に、よくよく耳馴染みのある声が掛けられる。
 振り返ったそこには、ニヤリと笑いながら立つ、幼馴染の姿があった。

「誰が優等生だ」

「赤点回避ってだけで優等生だろ。お前、今回も全部上位だろ?」

「ギリギリな」

「十分過ぎ。で、久々にどうよ、カラオケ。せっかく苦行から解放されたんだ、これからパーッと行こうぜって話してたんだよ」

 そう言って視線を寄越す先にも、幾つか見知った顔。
 俺が元居た部活の面々だ。

「悪い悟志(さとし)、今日はパス。姉ちゃんの帰りが遅いみたいだからさ。家のことやらないと」

「って言うとは思ってたけど、まあ一応な。んじゃまた今度」

「ん、今度」

 頷くと、悟志はさっさとそいつらの方へと駆けて行った。
 首を横に振ると、その数人も皆、だろうな、って顔でこっちに視線を寄越した。
 片手で合唱して軽く謝ると、笑顔で手を振ってくれる。
 もう何回断って来たか分からないけれど、律儀で優しいやつらだ。

 聊か胸も痛むけれど――元々、そう羽目を外してパーッと出来るような柄でもない。
 心の中でもう一度深く謝ってから、俺はバッグを担いで帰路についた。