「もし俺がお前のことを幸せにしてやりたいって言ったらどうする?」

「ええっ? それは……結婚とか? なら嬉しい、かも」

 恥ずかしさで段々とサシャが小さくなっていく。
 サシャはイースラが孤児院を立つ時に一緒についてきてくれた。

 辛い時に支えてくれてイースラもサシャのことを守っていこうと思っていた。
 けれど不幸な事故が起きた。

 事故が元でサシャは亡くなってしまい、イースラは大きなショックを受けた。
 二回目があるのならもっとしっかり気持ちを打ち明けて、もっとしっかりサシャのことを幸せにしてやりたいと思った。

「ただ一つだけ言っとかなきゃいけないことがある」

「な、なに?」

「もう一人幸せにしなきゃいけない相手がいるんだ」

 イースラの頭の中にあるもう一人の相手とはユリアナのことだった。
 サシャが亡くなった後に出会った女性であり、命をかけてこの状況を作り出してくれたユリアナのことも幸せにしてやりたいと思っていた。

「……もう浮気の話?」

 まだ顔を赤くしながらもサシャが頬を膨らませている。

「お前もその子も大事なんだ。ただお前にウソはつかない。だからこうして先に言っておく」

「誰? ミオラ? チルーサ?」

「……まだサシャも会ったことがない相手さ。でも二人が会えばきっと仲良くなれると思うよ」

「あなたは会ったことがあるの?」

「……実はまだないんだ」

「何それ?」

 サシャが上げたのは孤児院にいる女の子の名前だった。
 しかしユリアナは孤児院にいる子ではない。

 イースラが出会ったのも遠い未来の話であるし、あるいはこの人生では会うこともないかもしれないとすら思う。
 それでも出会ってからそうした相手がいるなどとサシャに不義理なことはできない。

 イースラはサシャの手を取って真っ直ぐに見つめる。
 また吸い込まれるような目で見られてサシャの顔が赤くなる。

 告白したそばから別の女の話するなんて信じられないと思うのだけど、イースラに真剣な眼差しで見つめられると何も言えなくなってしまう。
 惚れた弱みなんてことを誰かが言っていた。

 時折見せる真面目なところもサシャは好きだった。
 惚れてしまっているのだからしょうがない。

 会ってもない相手を守らねばならないなんて変な話だけどイースラが冗談を言っているような感じでもなかった。
 まあひとまずは幸せしたいという言葉を噛み締めてやろうと思った。

「……決めたよ」

「何を?」

「俺の進むべき道さ」

 イースラは立ち上がって服を着る。
 起きた出来事の大きさに何をすべきなのか考えがまとまらなかった。

 しかしサシャに再び出会ってイースラは悟った。
 起きたことは全て過去のことであるのだと。

 サシャもユリアナも幸せにする。
 もう二度と掴んで離さない。

「俺は負けない。全ての敵を打ち倒して、今度こそ幸せに暮らすんだ」

 やり直す機会を与えられたのならやってみよう。
 世界を救ってみんなと幸せに暮らすんだとイースラは空を見た。

「サシャ」

「う、うん?」

「ついてきてほしい」

「……どこに?」

「俺の進む道にだ」

 告白してくるし、わけわかんないこと言うし、どうしたらいいのか分からないとサシャは思った。
 でも真っ直ぐに見つめてくる吸い込まれそうな目はどこまでもイースラのことを信じてみようという気にサシャを駆り立てる。

「……その道の先には何があるの?」

 サシャはイースラの手を取って立ち上がる。

「分からん……でもサシャのことは幸せにしてみせるからさ」

「……ばか」

「馬鹿でいいさ。馬鹿じゃなきゃきっと進めない道だからな」