数回棒をぶつけて斬り合いを演じる。
 戦いは拮抗していたように見えたのだがすぐに変化は訪れた。

「くっ……」

「ふふ、まだまだだな」

 クラインの棒にまとわれた魔力が揺らめいて不安定になった。
 維持しようと魔力を止めるけれど棒に上手く魔力が込められない。

「うっ!」

 魔力に気を取られた隙をついてイースラがクラインの胴に一撃を叩き込んだ。

「はい、勝負有り!」

 審判代わりのサシャがサッとイースラの方に手を上げる。

「くそぉ……」

「毎日進歩してるぞ」

 クラインの魔力が急に不安定になったのは魔力不足、コントロール不足が原因である。
 魔力というものは放出すると簡単に拡散して消えていってしまう。

 それを拡散しないように体の周りに留めてまとうことがオーラユーザーとしての基本的な魔力の使い方になる。
 クラインは魔力の放出ができるようになった。

 魔力を放出できることは魔力を扱う上での第一歩であり、オーラユーザー入門といったレベルである。
 ここからオーラを無駄に消費しないようまとうことが必要なのであるがクラインはまだまだそこが甘い。

 そのために魔力を多く消耗してしまっているのであっという間に魔力不足になった。

「次はサシャだな」

「うん、やるよ!」

 クラインだけでなくサシャも積極的に剣を振る練習をしていた。
 イースラの記憶では回帰前サシャは魔法使いだったのだけどオーラとして魔力を使えて悪いことなどない。

 魔法しか使えないと接近戦に弱いなどデメリットがあるが、オーラとして魔力を使えればいざという時自分で剣を抜いて戦うこともできる。

「やあっ!」

 サシャも魔力を放出してオーラとしてまとう。
 サシャのオーラは美しい青色をしている。

 クラインのものに比べると力強さはないもののただ放出していただけのクラインよりもいくらか体の周りに魔力を留めることに成功している。
 まだまだ放出、拡散していることに変わりはないがクラインより長持ちするだろう。

 ただサシャの持っている木の棒にまとわれている魔力はやや弱い。
 力強さがない分魔力を通しにくい木の棒に魔力を込めるのが上手くいっていないのである。

「いくよー!」

 サシャがイースラに切りかかる。
 クラインは比較的自由に剣を振っていたのに対してサシャはイースラが教えを守って基本的に剣を振り下ろす。

 初心者っぽい固さは抜けていないがまだ初心者なのだからこれでいいとイースラは思う。
 基礎ができてこそ応用もできる。

「はっ!」

 振り下ろされたサシャの木の棒をイースラが受け止める。
 少しずつサシャのまとうオーラが弱くなってきている。

 呼吸も乱れてきているけれど、まだ目はイースラから一本を取ろうとしている意思を見せている。
 やる気という側面でもサシャの素質は十分だ。

「ふっ!」

「あっ!」

 サシャの手から木の棒が弾かれて飛んでいく。

「全然勝てないね……」

 肩で息をして汗を流しているサシャは少し悔しそうな顔をした。
 これから先だって負けてやるつもりはないけれど、二人が努力を続けていけばイースラだっていつまでも勝てるとは限らない。

 二人に負けないように自分も努力せねばならないなと思う。

「んじゃ最後にアルジャイード式だな」

 サシャとクラインが地面に座って目を閉じ、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
 魔力というのは生まれた時からの才能で持っている量が決まっているとされている。

 しかし実は鍛錬によって魔力量を増やすことができるのだ。
 魔力を使い切ってしっかり休むとほんのわずかであるけれど魔力が増加するのだ。

 基本的には魔力は使い切ると疲れてしまうので使い切らないようにするのが普通なのであまり多くの人はこのことは知らない。
 それに増える量もわずかなのでちょっとやそっとでは違いは感じられない。

 けれども子供の今のうちからやっておけば大人になることにはやらなかった時としっかりとした差が出てくる。
 ただ魔力を使い切り休んで回復させるだけが方法じゃない。

 より速く回復させより魔力を高める方法も存在している。
 それがアルジャイード式と呼ばれる魔力運用方法なのである。

「ゆっくり吸って……魔力を体の中で一周させて心臓に運ぶんだ」

 魔力は心臓から生み出される。
 健全な肉体、健全な精神であれば心臓から魔力が生み出されて心臓に魔力が溜められる。

 健康に生きていればそれだけで魔力が生み出されて回復するのだけど魔力は心臓から生み出されるものだけでなく空気中にも満ちている。
 アルジャイード式は空気中の魔力を取り込んで自分の魔力とする方法の一つで、安定的に魔力の回復と増加ができる。

 外から取り込んだ魔力を体の中で巡回させて心臓に送り込むことで自分のものにするのだ。
 危険なことの少ないやり方であるが集中を要するので邪魔が入らないようにイースラが見張りを務める。

「そろそろ一度戻ってくるかな?」

 もう少し時が進めば時計というものも手に入りやすくなるけれど今は超がつくほどの高級品である。
 時間なんか太陽の位置から予測するしかない。

 太陽の位置からすると今は大体昼時。
 そろそろ昼食がてら休憩しに来るだろうとイースラは読んでいる。