鈴の音が満ちる夜

私の名前は、鈴守(すずもり)遥香(はるか)
鈴に守るで鈴守、遥か遠くの遥に、香るで遥香。

14歳、夕霧所属の巫女。
成績は早蕨(さわらび)時代から、良くも悪くもない――平凡すぎる能力値。

緩いパーマがかかったセミロングの茶髪。
色素の薄い垂れ目。
……そして、低身長。

頭の中で、自分のプロフィールを復習する。

――うん、大丈夫。私は私だ。

でも。

さっき、一体何が起こったのだろう?

何か、とてつもなく大きな力が目覚めるような――そんな感覚があった。
けれど、考えても仕方ない。

「よし」

気持ちを切り替え、私はベッドから降りて歩き出す。

その瞬間、ハッとする。

……なんで私、家にいるの!?

夕霧にいたはずなのに――

「……っ、落ち着いて、落ち着いて……!」

パニックになりかける心を、無理やり抑え込む。
深呼吸をして、右手を前に突き出した。

「巫女装束、着装!」

霊力に応じて色が決まる巫女装束が、ふわりと身を包む。

だが、それを見た瞬間、私は息をのんだ。

――真紅。

まるで血のように深い、鮮やかな赤。

昨日までの私の色は、せいぜい紅梅色か、(とき)色といった淡い色だったはず。
なのに、どうして……?

何があったの?

――こうしてはいられない!

私は懐から小さな箱を取り出す。
携帯式ゲート。

箱のふたを開け、躊躇なく飛び込む。

目指すは――夕霧。