「君が代は 千代に八千代に
さざれ石の 巌となりて
苔のむすまで」

凛とした静寂が、澄んだ声に震えた。
その声の主は、巫女装束に身を包んだ一人の少女。

腰まで流れる艶やかな黒髪が、夜の闇を思わせる。
透き通る朱色の瞳は、目の前で醜悪に咆哮する異形を静かに映していた。

少女は静かに神楽鈴を振り、舞を始める。
鈴の音が夜気を切り裂き、柔らかな光が異形を包み込んでいく。
まるで鈴が歌っているかのように、光は輪を描きながら広がり、空間を浄化していった。

異形は苦悶の声を上げる。
少女の舞が激しさを増すにつれ、光の強度もまた鋭さを増していく。
彼女の額に滲む汗が鈴の煌めきと混ざり合い、静かな戦いの熱を帯びる。

異形はのたうち、地を裂かんばかりに咆哮したが、少女の視線は揺るがない。
鈴が奏でる音色が、次第に変わり始めた。

──音が、透明な金魚へと変わる。

金魚たちは少女を囲むように宙を舞い、淡い光の軌跡を描きながら空間を満たしていった。
その瞬間、少女の体が光に包まれ、地上を離れる。

巫女装束が淡い藤色に染まり、神楽鈴は静かに大麻へと変わった。
彼女が大麻を大きく振るうと、無数の光矢が生まれ、矢の群れが一斉に異形へと放たれた。

光矢は異形の身体を貫き、苦悶の叫びが夜を震わせる。
怒り狂った異形が巨大な禍々しい腕を振り上げるが、金魚たちは少女を守るかのようにその攻撃を阻む。

再び少女が大麻を振るうと、光の柱が地面から突き上がり、異形を包囲する光の籠となった。
異形は籠を叩き、地響きを伴って暴れるが、やがて力は尽き、断末魔の叫びと共に消え去った。

そこには、ただ一つの黒水晶が残されていた。
少女は光の籠をすり抜けるようにして黒水晶を拾い上げ、懐から小さな箱を取り出す。

箱を開くと、柔らかな光と共に少女の身長ほどのゲートが現れた。
無言のまま少女はそのゲートに入り、光の中へと消えていった。

暗闇に沈む、誰もいない部屋。
必要最低限の家具と神棚だけが、ひっそりと存在を主張している。
生活感のないその空間に、突然、一筋の光が差し込んだ。

光が膨らみ、やがて少女が姿を現す。
手には、先ほどの禍々しい黒水晶。

少女はそれを神棚へと置き、静かに何かを呟いた。
その声はあまりに小さく、まるで世界の隙間に溶けていくかのようだった。

次の瞬間、黒水晶が黒い靄へと変わり、少女の胸に静かに吸い込まれる。
それを確認した少女は、再び懐から小さな箱を取り出し、開く。

ゲートが現れ、光が広がる。
少女は迷いなく、その中へと消えていった。

──ただ、静寂だけが残る。