「ただいまー」と小さな声を出して玄関を開けると「ハァハァ」という荒い息と「彩乃(あやの)、大丈夫だよ」と彩乃の息を整えるためお母さんが声をかけているのが聞こえてきた。
「はぁまたか」とふと声が漏れてしまった。

私の妹、彩乃はパニック障害を持っており時々パニックになり過呼吸が出てしまうのだ。

手洗いうがいをしリビングのドアを開けると案の定泣きならがら過呼吸になる妹と優しく声をかけているお母さんがいた。
私に気づいたお母さんが「おかえり」と声をかけてきた。
私は「ただいま」と返事をしリビングにある階段を上り自室に篭もる。
まだ1階から妹が泣いている声が聞こえてくる。

私はその声を遮るように腕に刃物を押し当てた。

少し時間が経ち妹の声も私自身の心も落ち着き、私は急いで傷の手当をする。
こんなのお母さんに見られたら終わりだ。
なんとしてもお母さんにバレないようにしないと。

少しすると部屋のドアをノックする音が聞こえ、返事をする間もなくドアが開かれお母さんが入ってきた。
「今日は門限ギリギリだったじゃない」部屋に入ってから第一声がそれだった。
「ごめんなさい」
「だから早く出てきたら良かったのに。お母さんが言わなかったら門限過ぎてたかもしれないよ。」
今日は運が悪いことに駅に着いた瞬間に電車が行ってしまったのだ。そんな事情も知らずにお母さんは私を責めたててくる。
「お母さんはあなたが心配なの」
私が門限ギリギリの時に毎回口に出す言葉だ。
それに私は門限の6時を破ったことは1度もなく門限をすぎる前に帰ってくる。それでもお母さんは気に食わないらしい。
そんなことを考えていると「これからは早く帰ってくるのよ。」上の空で話を聞き流しているとお母さんは「ご飯ができたから降りてきて」と言って部屋を出ていった。