Ribbꪆ୧n


 突然のまぶしさに目を細める。空一面を覆っていた冴えない灰色の雲は、遠くかなたの山並みにしまい込まれたみたい。おかげでうららかな日ざしの(すだれ)が澄んだ空に垂らされて、小春日和――あたしの期待を満たすように、みわたすかぎりの景色を優しくほぐしてくれる。

 さっき駅についたばかりのあたし、思い出のフィルムに焼きついた景色に後悔をしたたらせ、青春の遺灰を踏みつけるばかりだった。それが、いま。

 こんなに思い出の祝宴に昇華するなんて。至るところに尊い時間が息づき、あたしの目にふれたとたん、オルゴールのように再生(リマインド)を起動させる。

 ヒヨドリの(さえず)り、かれにしか奏でられない雪の足音、霜をかぶったジニアの柔らかな甘いかおり――それらが音楽の一ふしとして浮かび、触発され、共鳴する。こんなに、こんなに揺るぎなくて。恋しくて。……あのころにもどりたい。

 あたしはスカートもかまわず駆けていた。吹きこす木枯らしも活きいきと背中を押してくれる。

 あの初恋を、たしかめに行こう。きみに会ったときから始まっていた。当時は始まったことにすら気づけなかった。これから、またきみに会うことで始まれる初恋を。

 あの冬、あなたとの毎日にもらった「思い出」を、この「かつての帰り道」で拾いあつめながら。

 高校時代のあたしは、大切が当たりまえで、覚めない夢に住んでるみたいに胸いっぱいで、つい忘れかけていた、この「尊くて《《かけがえのない》》きもち」、届けにいこう。


 ひと晩あっても語りきれない自信のある土産話を、どこから話そうかな。

 シトラスの匂いでゆれる「かつての帰り道」に、今はひとりぶん欠けてる、雪の足跡を刻みながら。



         Please be happy‥