八方美人は褒め言葉ではない。
誰がそんなことを言ったのだろうか、みんないい人を演じているのに。
でも私は知ってる、一切偽ることなく人と関わっていたことがある人を。
私がその人と会ったのは高校に入学して三ヶ月ほどが過ぎた日の放課後。
親友の花《はな》と下校中の時だった。
「ねえ、あれって大野くんじゃない?」
花が指差した方を見ると女子から学年一イケメンと言われている。大野くんと女生徒がいた。
「あ、ほんとだ。何やってんだろうね」
「そりゃー決まってるでしょ。放課後、男女、校舎裏この三拍子が揃ったらあれしかないでしょ」
うわーやっぱりか。
一瞬選択肢がよぎったが真っ先に候補から外したやつ。
そう告は……「告白だよ!告白!あんたも散々されてきたんだからわかるでしょ!」
興奮しすぎたのか花の声が思ったよりも大きくなってしまったせいで、大野くんと女生徒はこっちに視線を向けてきた。
私は興奮している花を壁際に引っ張りなんとかその視線から逃れれた。
見つかってない……よね……?
「ちょっと花!興奮しすぎだって……!《小声で》」
「ごめんごめんちょっと興奮し過ぎた。でで?あの二人はどうなってるの?《小声で》」
平謝りをした花は凝ることなく、男女の様子を盗み見していた。
本来なら帰るように促さないと行けないのに、なかなかそれができない。理由は簡単で私も気になるから。
『で、話って何?俺この後バイトあるから早くしてくれない?』
おいおいなかなかドライだな。
もっと優しく接してあげなよ。
『あ、あの……好きです!付き合ってください……!』
やっぱり告白だったか。
これ、断るの辛いんだよね。向こうの気持ちを真っ向から全否定してるみたいで。
大野くんどう断るんだろう。
見る限りこれが初めてじゃなさそうだしーーー
『俺は好きじゃない。それにあんまり話たことないのにどうして好きになったの?』
『え?えーと、や……優しいから』
『いや優しいって関わったことほとんどないでしょ。素直に言えばいいじゃん顔がタイプって。そういうとこも含めて好きじゃないわ』
「やっば……」
嘲笑しながら言う彼に圧倒されているのは花だけじゃない。私もそうだ。
でも少し、ほんの少しだけ大野くんを羨ましいと思ってしまった。
言い過ぎではあるけど。
『で?こんな俺でも優しいって言えるの?』
『……』
今にも泣きそうになりながら女生徒は首を静かに横に振った。
『あっそ。じゃ』
大野くんが背を向けてその場を去っていき見えなくなった頃ぐらいに女生徒は静かに堪えながら涙をながしていた。
大野くんの前で泣かなかったのはきっと自分の負けを認めたくなかったんだろう。
「帰ろ、花」
「う、うん」
帰り道はさっきの告白の話主に大野くんのことだった。
「明日大野くんと顔合わせるの気まずいよね……」
「見なかったことにはできないしね」
「でも、絶対悟られちゃダメだよね」
「うん。まあ私たちあんまり関わることないし大丈夫じゃない?」
「そーだよね!大丈夫大丈夫」
「じゃあ花私こっちだからまた明日」
「うん!バイバーイ」
花と別れた後の家までの道は大野くんのことで頭がいっぱいだった。
別に彼のことが気になるとかそういうのではなく、単純にうらやましかった。
《自分の気持ちを素直に言える彼のことが》
だって私は八方美人だから。
八方美人=他人に嫌われることなく上手く取り繕うようにすることを言う。
私がこんな性格になったのは小学校高学年のころ、周りから可愛いと言われてきた私は男の子から遊びに誘われることが多かった。
活発なこともあって男の子とよく遊んでいた。けど、男の子からしたらそれはアプローチ。それに気づかなかった私は同級生から男遊びが好きとよくわからない噂を流され訳もわからず嫌われ、仲間外れにされた。
極め付けは中学一年の夏、告白してきた男子を振ったら。その男子の彼女から色目を使ったとまたもや訳もわからないことで嫌われ、残りの中学生活はずっと花と一緒にいた。
そしてこの頃から私は誓った。誰からも嫌われないようにかつ好きになってもらわないようにある程度の距離感を保ちながら生きていこうと。
翌日下駄箱にて
「おはよー名代さん」
「おはよう、高坂さん」
「名代さん本当にいつも綺麗だよね。化粧とかしてるの?」
本当は何もしていない。けど、何もしていないと言うと嫌われるから。
「ファンデーション塗ってその上からコンシーラー使ってるよ」
「え!そうなの?名代さんみたいに美人だったら何もしてないのかと思ってた」
「何もしないのは流石に無理かな(笑)よかったら使ってるやつ教えようか?」
「え、いいの?ありがとうー」
嘘で塗り固められた会話。でもこの会話なら嫌われることもない。
「なーに話してるの?香夜、あやっち」
「あ、おはよー花」
「花ちゃんおはよう。今ね名代さんから使ってる化粧品教えてもらってたんだ」
「え、香夜って化粧とかするの?前は確か……」
ま、まずい。
唯一花は私が何もしていないことを知っている。今ここで高坂さんに何もしていないことがバレてしまうととんでもなくまずい状況になってしまう。
「最近ね肌が荒れてきたからそう言うのにも力を入れてるんだ」
「あーそう言うことね」
なんとかことなきを終えた私は三人で教室に向かった。
席についた私に花は小声で話かけてきた。
「ね、香夜なんであんな嘘吐くの?」
「ごめん花、私はあれでいいと思ってるから。心配かけてごめんね」
回答になっていない返答。普通なら深掘りしてもおかしくない返答なのに花は「まあわかってるならいいよ」わかってくれる。
「ありがとう花」
「てかそんなことより香夜、机の中になんか入ってるよ」
「え?」
机の中に手を入れると白い紙が四つ折りにされて入っていた。
嫌な予感がする。
恐る恐る紙を開いていくとそこには『今日の放課後、視聴覚室に来てください。話したいことがあります』どうして嫌な予感てこうも的中するんだろう。
「わーおさすが香夜今回で何回目?まだ入学して三ヶ月でしょ?」
「数えてないけど大体10回目ぐらいじゃない?しかも今回は名前なし……」
こういうのは本当に困る。
私が思案している間に覚えのある名前が聞こえてきた。
「大野くんおはよー」
「おはよう」
大野くんだ昨日のことなど気にする様子は全くなく普通に椅子に座り突っ伏した。
同じことを花も思ったのか、また小声で話かけてきた。
「大野くんて誰とも関わらないよね」
「うん、あんまり人と会話してるの見たことないかも」
そんな会話をしている最中大野くんの前に女生徒二人が現れた。
そのうちの一人は昨日大野くんに告白した女生徒だった。
何やらただならぬ雰囲気を感じ、それを察知したのか扉の前にいた何人かの生徒は教室から出ていった。
私たちも教室を出ようとはしたもののその時にはもう遅かった。
「ねえ、翔くん。昨日直美に酷いこと言ったみたいじゃん」
その声に体を起こした大野くんは眠たそうな目を擦りながら返答した。
「酷いこと?あーあれか。別に?俺は自分の気持ちを素直に言っただけだけど?好きじゃないから好きじゃないって。顔が好きなのに性格が優しいとか嘘を吐いたから本当のことを言っただけだけ」
「そう言うことを聞いてるんじゃない!どうしてそんなことを言ったのか聞いてるの!もっと優しく言えたでしょ!?」
大野くんの返答が気に入らなかったのか、女生徒は声を荒げ机をバンと強く叩いた。
その音と怒声に周囲の視線は一斉に一点へと集まった。
「最初に言った通りだけど?自分の気持ちを素直に言っただけ。今赤木さんがやってることと一緒のことをしただけだよ」
「あんた……性格最悪だね」
「友達の腹いせに俺に突っかかってきたあんたに対して冷静でいた俺の方がよっぽど性格が良いと思うけど?」
その言葉が引き金になったのか赤木さんの手はとてつもなく早いスピードで大野くんの頬へと向かっていた。
誰もが当たる。そう思った瞬間ーーー
「もういいよ!智子。戻ろ」
止めたのは直美さんだった。
その声が届いた赤木さんは「くそっ」と言いながらポニーテールを靡かせ怒り心頭で教室から出て行った。
二人の姿が教室から消えると大野くんは何事もなかったかのように再び机に突っ伏した。
その行動のおかげか教室の中はさっきの騒がしさを取り戻した。が一部では先ほどのことが囁かれていた。
「大野くんすごいよね」
「高坂さん」「あやっち」
「私もクラス員で何度かしか話たことないんだけど、思ったことをはっきり言性格だからよく思わない人も少なくないんだよ。でも大野くん自分が言ったことは絶対曲げないし誰よりも頑張るんだ。誤解されがちだけど、良い人だと思うよ。人付き合いが苦手なだけで」
「なんかあの場面を見ちゃうと説得力がないような……」
「確かにねでもいつもはもっと穏やかだよ。はっきりは言うけど、あんな様子初めて見る」
「腹いせであんな突っ掛かれかたされたら誰でもああなるんじゃない?」
「あ、確かに香夜さすがだね」
「まあね。ちょっと大野くんの気持ちもわかるような気がするから」
「確かに、でも周りはそうは思ってなさそうだけどね」
周りの話声に耳を傾けるとそこら中から大野くんへの対応に対する否定的な声が聞こえてきた。
放課後
「香夜ー視聴覚室へはいくの?」
「うん、言って断ってくるよ。催促されても面倒なだけだし」
「本当は付いていきたいんだけど、日直の当番でごめんね」
「大丈夫だよ。それにーーー」
「それに?」
「ううん、なんでもない」
それに大野くんの姿を見ていたらなんだか勇気が出てきた。
とは恥ずかしくてなかなか言えない。
「ま、いいや頑張って!」
「うん!」
視聴覚室に着くと一人の男子生徒がいた。
見覚えはーーーない。
てことは一目惚れのパターンか。
「名代さんきてくれたんだね。よかったー」
「あ、うん。話って何?」
「好きです付き合ってください!」
いつも苦手なんだ。告白を断るのが。
どう断っても相手を傷つけてしまうから。
「あ、あの……ごめんなさい!名前も知らない人と付き合うのは……」
「あはは、そうですよね僕としたことが。小野春正《おのはるまさ》って言います!改めて付き合ってください」
「い、いやお会いしたこともない人と付き合うのは……」
「そうですよね、なら連絡先交換しましょうよ。メアドなんですか?」
詰め寄ってくる彼が怖いのか、嫌われないように上手く断ろうとして空回りしているのか、大野くんのようにはっきり言いたいのに言えないのか。おそらくこれら全てだろう。
私が断れずに曖昧な返事ばかりしてしまい、相手のペースに持って行かれてしまっている。
諦めてスマホを取り出したその時ーーー
ガララ
「名代さん。嫌だってさ」
声と同時に入ってきたのはーーー
「大野くん」
「ん?勝手に入ってきて何を言い出すかと思えば、僕が聞いているのは大野くんじゃない。名代さんに聞いてるんだ」
「確かにそうだ。でもな小野お前もう答えわかってるんだろ?振られるって。それを強引に交際へと持ち込もうとしてるんじゃないのか?」
図星を突かれたのか小野の顔が引き攣り始めた。
「ち、違う。僕はただ本気で名代さんを……」
「嘘か本気かなんて知ったことじゃねーよ。ただ本気ならそんなやり方やめとけよ。ダサいし絶対に振り向いてはくれないぞ」
その言葉を受け入れられないのか、小野くんは助けを求めるような目で私の方へと目を向けた。
勇気を出して告白した小野くんに私は最大限の敬意を払いながら私は口を開いた。
「ごめんなさい。大野くんの言う通りあなたとお付き合いするつもりはありません」
深々と頭を下げてそう告げると、小野くんは静かに視聴覚室から出ていった。
「あ、あの……助けてくれてありがとう」
視聴覚室から出ようとした大野くんを呼び止め、私はお礼を言った。
これが大野くんとの初めての会話だった。
「お前、一体どうゆうつもり?」
振り返った大野くんの目はまっすぐただただまっすぐに私へ向けられていた。
普通なら見惚れても仕方がない綺麗な顔立ち、でもその瞳は私の心を見透かしているようだった。
それが怖かったのか、私は一歩後退りしながら、返答した。
「ど、どうゆうつもりって一体どうゆうこと……?」
「いやなら嫌って言えばいいだろ。どうして中途半端な断り方をした」
大野くんの焦点は変わらず私に向けられている。
適当に誤魔化したり言い逃れができない状況は明白だった。
「嫌われるのが怖かったから……」
絞り出したような小さな声。大野くんに届いたか届いてないかわからないほどの小さな声。
「その答えだとお前はどうでも良いやつに嫌われるのと、どうでも良いやつに付き纏われるどっちかしか選べない状況でお前は付き纏われる状況をとるんだな」
「し、しっかり断るつもりだったよ……最後は……」
その言葉が気に障ったのか大野くんの目が変わった。
「最後?お前ふざけんなよ、携帯出そうとしてたやつがどうやってあの状況で断るんだよ」
「私は私なりに断ろうとしたんだよ。なのに大野くんが……」
「中途半端な優しさで相手にワンちゃんあるかのように思わせてから振る。それがお前なりの振り方なのかよ性格悪すぎるだろ」
この瞬間確信した、この言い争いはヒートアップする。
そして絶対に良くない終わり方をすると。
「性格が悪いのはどっちなの!?人のことを一ミリも考えないで言いたいことだけズカズカ言って無神経にもほどがあるよ!」
「それの何が悪い。お前みたいに自分の心に嘘をついてまで誰かに好かれたいとは思わない」
「あー、納得したよ。どんな性格をしたらあんな振り方ができるのかあんたみたいな性格の人がああいう振り方をするんだね」
「振り方?」
「昨日、見てたんだよ。全部。せっかく告白しにきてくれたのにあんな言い方。ほんっと最低」
「はっ俺の振り方なんてお前の振り方からしたらマシだと思うけど?相手のことを思ってたらお前みたいな振り方絶対にできない」
嘲笑しながら言う大野くんの表情は何故か楽しそうでかくいう私の心も久しぶりに昂っていた。
すると自然に笑いが出ていた。
「「フッ」」
「「あははは」」
「お……お前負けず嫌いすぎ」
笑いながら言う大野くんの表情は本当に楽しそうだった。
「大野くんに言われたくないよ」
「……」
「……」
沈黙が数秒続いた後、大野くんの表情が変わった。
「で、なんではっきり断ろうとしなかったんだ?」
「嫌われたくなかったって言ってもまた繰り返すだけだよね……はぁー」
ため息を吐いた私はもう何もかもどうでもよくなってしまった。
「こう見えて小学生の頃は活発でね男の子とも普通に遊んでたんだ。でも今思えばそれは男の子なりのアピールでそれがきっかけで女の子からは仲間ハズレにされたの。で極め付けは中学一年の頃に告白してきた男子を振ったら色目を使ったって変な噂を流されてクラスの女子をほとんど的に回しちゃってさ、それから決めたんだよ誰からも好かれることなく嫌われることもない適当な距離感で生きていくって」
一見するとただの自慢話を大野くんは相槌を打ちながら聞いてくれていた。
「つまり八方美人を演じてると、嫌われないために」
「そ、そうだけど……そんなはっきりーーー」
言い終えようとしたその瞬間思いがけない言葉が私が飛んでき、私の思考をストップさせた。
「俺は逆。正直に生きてやると思った」
「え?逆?どうゆうこと?」
戸惑う私に対して大野くんは落ち着いた口調で話を進めた。
「俺も昔名代さんみたいなことがあってさ、それが怖くて中途半端な距離感で接してた。でもそれじゃダメなんだよ。自分に嘘をつきながら生きてきても何も楽しくないし、周りも中途半端な人しか集まらなくなる。それが嫌だったし怖かった。本当の自分を失いそうな気がして、だから思ったんだ正直に生きていくって」
驚いた。
私からみた大野くんは相手の気持ちも考えずに言いたいことをズカズカ言ってくる無神経な奴。
でも違った、私と同じ悩みを持っているからこそその答えにたどり着いたんだ。
私が一番知っているはずなのに。
「ごめん、大野くん。なんか酷いこと言っちゃった」
深々と頭を下げて謝罪する私に大野くんも頭を下げた。
「いや、俺のほうこそ悪かった。つい……言い過ぎた……」
「ううん、いいんだよ。助けてもらったのに図星をつかれたからついムキになちゃった……」
「それは……」
「……」
「……」
どうして大野くんとの会話はこうもぎこちなくなってしまうんだろう。
緊張してるから?考えながら話しているから?恥ずかしいから?
いや、どれも違う。素で話しているからだ。
「あ、あの一つだけ聞いてもいい?」
「何?」
「ごめん昨日告白されてるのを見ちゃったんだけどさ、どうしてあんなふうな振り方をしたの?正直今の大野くんからは想像がつかない」
まずいことを聞いてしまったのかもしれない。
大野くんの顔が徐々に暗くなっていくような気がしたから。
「いつかは忘れたけど聞こえてきたんだよ確か直美さんだっけ?名前」
『大野くんかっこいいよねー』
『ねー』
『私付き合うなら絶対大野くんみたいな人がいい!』
「第一印象は見た目から入る。それは当たり前だと思う。でも見た目だけを見て付き合いたいと思うか?ましてや本当に告白してくるやつ俺は初めて見た。だからああいいう振り方をした」
大野くんの気持ちはすごくわかるような気がする。
だから……だからこそそれは違うよ大野くん。
「大野くん。それは違うよ?正直に生きるのも大事だと思う。けど……相手の気持ちを考えて言葉を選ぶのは嘘をついてることになるの?」
「そ、それは……な、ならない…」
「うん。ならないよ。ねえ大野くんお願いがあるの」
「お願い?」
「うん、さっき大野くんに言われて確信した正直な自分でいたいって。だから私に協力してほしい素の自分でいられるように」
そう言い終えると私は大野くんに握手を求めた。
大野くんはその手を握りこう口にした。
「お願いするのは俺のほうだ名代。こんなことお願いするの子供みたいで恥ずかしいけど……言葉の選びかたを教えてください」
こうして私と大野くんの奇妙な関係がスタートし。
お互いに欠かせない存在へとなっている。
そして現在ーーー卒業式の日
『香夜、卒業式が終わったら校舎裏に来てくれる?』大野
『オッケー!でも用事あるから遅くなるかも。それでも大丈夫?』香夜
『俺もなんだかんだ遅れると思うから終わったら教えてくれる?』
『オッケ!』
「名代香夜さん、好きです付き合ってください」
緊張しながら告白する男子生徒に私は精一杯の誠意を見せて断らないといけない。
中途半端な優しさは相手をその気にさせるだけだから。
それでもし嫌われるようなことがあるならもう私にはどうすることもできない。
「ありがとう。でもごめんなさい。他に好きな人がいます」
「大野くん好きです付き合ってください!」
卒業式に告白か。きっと振られると分かって後悔しないように告白してきてくれたんだろう。
それがどれだけ勇気のいることか。その気持ちに答えることはできないけど、寄り添うことはできる。
「ありがとう。でもごめんなさい。他に好きな人がいます」
誠心誠意頭を下げて断った。
すると思いがけない言葉が頭上から聞こえてきた。
「嬉しいです。しっかり断ってくれて……応援してます!」
こうゆうとき改めて思う。香夜と出会えて本当に良かったと。
「ありがとう」
誰がそんなことを言ったのだろうか、みんないい人を演じているのに。
でも私は知ってる、一切偽ることなく人と関わっていたことがある人を。
私がその人と会ったのは高校に入学して三ヶ月ほどが過ぎた日の放課後。
親友の花《はな》と下校中の時だった。
「ねえ、あれって大野くんじゃない?」
花が指差した方を見ると女子から学年一イケメンと言われている。大野くんと女生徒がいた。
「あ、ほんとだ。何やってんだろうね」
「そりゃー決まってるでしょ。放課後、男女、校舎裏この三拍子が揃ったらあれしかないでしょ」
うわーやっぱりか。
一瞬選択肢がよぎったが真っ先に候補から外したやつ。
そう告は……「告白だよ!告白!あんたも散々されてきたんだからわかるでしょ!」
興奮しすぎたのか花の声が思ったよりも大きくなってしまったせいで、大野くんと女生徒はこっちに視線を向けてきた。
私は興奮している花を壁際に引っ張りなんとかその視線から逃れれた。
見つかってない……よね……?
「ちょっと花!興奮しすぎだって……!《小声で》」
「ごめんごめんちょっと興奮し過ぎた。でで?あの二人はどうなってるの?《小声で》」
平謝りをした花は凝ることなく、男女の様子を盗み見していた。
本来なら帰るように促さないと行けないのに、なかなかそれができない。理由は簡単で私も気になるから。
『で、話って何?俺この後バイトあるから早くしてくれない?』
おいおいなかなかドライだな。
もっと優しく接してあげなよ。
『あ、あの……好きです!付き合ってください……!』
やっぱり告白だったか。
これ、断るの辛いんだよね。向こうの気持ちを真っ向から全否定してるみたいで。
大野くんどう断るんだろう。
見る限りこれが初めてじゃなさそうだしーーー
『俺は好きじゃない。それにあんまり話たことないのにどうして好きになったの?』
『え?えーと、や……優しいから』
『いや優しいって関わったことほとんどないでしょ。素直に言えばいいじゃん顔がタイプって。そういうとこも含めて好きじゃないわ』
「やっば……」
嘲笑しながら言う彼に圧倒されているのは花だけじゃない。私もそうだ。
でも少し、ほんの少しだけ大野くんを羨ましいと思ってしまった。
言い過ぎではあるけど。
『で?こんな俺でも優しいって言えるの?』
『……』
今にも泣きそうになりながら女生徒は首を静かに横に振った。
『あっそ。じゃ』
大野くんが背を向けてその場を去っていき見えなくなった頃ぐらいに女生徒は静かに堪えながら涙をながしていた。
大野くんの前で泣かなかったのはきっと自分の負けを認めたくなかったんだろう。
「帰ろ、花」
「う、うん」
帰り道はさっきの告白の話主に大野くんのことだった。
「明日大野くんと顔合わせるの気まずいよね……」
「見なかったことにはできないしね」
「でも、絶対悟られちゃダメだよね」
「うん。まあ私たちあんまり関わることないし大丈夫じゃない?」
「そーだよね!大丈夫大丈夫」
「じゃあ花私こっちだからまた明日」
「うん!バイバーイ」
花と別れた後の家までの道は大野くんのことで頭がいっぱいだった。
別に彼のことが気になるとかそういうのではなく、単純にうらやましかった。
《自分の気持ちを素直に言える彼のことが》
だって私は八方美人だから。
八方美人=他人に嫌われることなく上手く取り繕うようにすることを言う。
私がこんな性格になったのは小学校高学年のころ、周りから可愛いと言われてきた私は男の子から遊びに誘われることが多かった。
活発なこともあって男の子とよく遊んでいた。けど、男の子からしたらそれはアプローチ。それに気づかなかった私は同級生から男遊びが好きとよくわからない噂を流され訳もわからず嫌われ、仲間外れにされた。
極め付けは中学一年の夏、告白してきた男子を振ったら。その男子の彼女から色目を使ったとまたもや訳もわからないことで嫌われ、残りの中学生活はずっと花と一緒にいた。
そしてこの頃から私は誓った。誰からも嫌われないようにかつ好きになってもらわないようにある程度の距離感を保ちながら生きていこうと。
翌日下駄箱にて
「おはよー名代さん」
「おはよう、高坂さん」
「名代さん本当にいつも綺麗だよね。化粧とかしてるの?」
本当は何もしていない。けど、何もしていないと言うと嫌われるから。
「ファンデーション塗ってその上からコンシーラー使ってるよ」
「え!そうなの?名代さんみたいに美人だったら何もしてないのかと思ってた」
「何もしないのは流石に無理かな(笑)よかったら使ってるやつ教えようか?」
「え、いいの?ありがとうー」
嘘で塗り固められた会話。でもこの会話なら嫌われることもない。
「なーに話してるの?香夜、あやっち」
「あ、おはよー花」
「花ちゃんおはよう。今ね名代さんから使ってる化粧品教えてもらってたんだ」
「え、香夜って化粧とかするの?前は確か……」
ま、まずい。
唯一花は私が何もしていないことを知っている。今ここで高坂さんに何もしていないことがバレてしまうととんでもなくまずい状況になってしまう。
「最近ね肌が荒れてきたからそう言うのにも力を入れてるんだ」
「あーそう言うことね」
なんとかことなきを終えた私は三人で教室に向かった。
席についた私に花は小声で話かけてきた。
「ね、香夜なんであんな嘘吐くの?」
「ごめん花、私はあれでいいと思ってるから。心配かけてごめんね」
回答になっていない返答。普通なら深掘りしてもおかしくない返答なのに花は「まあわかってるならいいよ」わかってくれる。
「ありがとう花」
「てかそんなことより香夜、机の中になんか入ってるよ」
「え?」
机の中に手を入れると白い紙が四つ折りにされて入っていた。
嫌な予感がする。
恐る恐る紙を開いていくとそこには『今日の放課後、視聴覚室に来てください。話したいことがあります』どうして嫌な予感てこうも的中するんだろう。
「わーおさすが香夜今回で何回目?まだ入学して三ヶ月でしょ?」
「数えてないけど大体10回目ぐらいじゃない?しかも今回は名前なし……」
こういうのは本当に困る。
私が思案している間に覚えのある名前が聞こえてきた。
「大野くんおはよー」
「おはよう」
大野くんだ昨日のことなど気にする様子は全くなく普通に椅子に座り突っ伏した。
同じことを花も思ったのか、また小声で話かけてきた。
「大野くんて誰とも関わらないよね」
「うん、あんまり人と会話してるの見たことないかも」
そんな会話をしている最中大野くんの前に女生徒二人が現れた。
そのうちの一人は昨日大野くんに告白した女生徒だった。
何やらただならぬ雰囲気を感じ、それを察知したのか扉の前にいた何人かの生徒は教室から出ていった。
私たちも教室を出ようとはしたもののその時にはもう遅かった。
「ねえ、翔くん。昨日直美に酷いこと言ったみたいじゃん」
その声に体を起こした大野くんは眠たそうな目を擦りながら返答した。
「酷いこと?あーあれか。別に?俺は自分の気持ちを素直に言っただけだけど?好きじゃないから好きじゃないって。顔が好きなのに性格が優しいとか嘘を吐いたから本当のことを言っただけだけ」
「そう言うことを聞いてるんじゃない!どうしてそんなことを言ったのか聞いてるの!もっと優しく言えたでしょ!?」
大野くんの返答が気に入らなかったのか、女生徒は声を荒げ机をバンと強く叩いた。
その音と怒声に周囲の視線は一斉に一点へと集まった。
「最初に言った通りだけど?自分の気持ちを素直に言っただけ。今赤木さんがやってることと一緒のことをしただけだよ」
「あんた……性格最悪だね」
「友達の腹いせに俺に突っかかってきたあんたに対して冷静でいた俺の方がよっぽど性格が良いと思うけど?」
その言葉が引き金になったのか赤木さんの手はとてつもなく早いスピードで大野くんの頬へと向かっていた。
誰もが当たる。そう思った瞬間ーーー
「もういいよ!智子。戻ろ」
止めたのは直美さんだった。
その声が届いた赤木さんは「くそっ」と言いながらポニーテールを靡かせ怒り心頭で教室から出て行った。
二人の姿が教室から消えると大野くんは何事もなかったかのように再び机に突っ伏した。
その行動のおかげか教室の中はさっきの騒がしさを取り戻した。が一部では先ほどのことが囁かれていた。
「大野くんすごいよね」
「高坂さん」「あやっち」
「私もクラス員で何度かしか話たことないんだけど、思ったことをはっきり言性格だからよく思わない人も少なくないんだよ。でも大野くん自分が言ったことは絶対曲げないし誰よりも頑張るんだ。誤解されがちだけど、良い人だと思うよ。人付き合いが苦手なだけで」
「なんかあの場面を見ちゃうと説得力がないような……」
「確かにねでもいつもはもっと穏やかだよ。はっきりは言うけど、あんな様子初めて見る」
「腹いせであんな突っ掛かれかたされたら誰でもああなるんじゃない?」
「あ、確かに香夜さすがだね」
「まあね。ちょっと大野くんの気持ちもわかるような気がするから」
「確かに、でも周りはそうは思ってなさそうだけどね」
周りの話声に耳を傾けるとそこら中から大野くんへの対応に対する否定的な声が聞こえてきた。
放課後
「香夜ー視聴覚室へはいくの?」
「うん、言って断ってくるよ。催促されても面倒なだけだし」
「本当は付いていきたいんだけど、日直の当番でごめんね」
「大丈夫だよ。それにーーー」
「それに?」
「ううん、なんでもない」
それに大野くんの姿を見ていたらなんだか勇気が出てきた。
とは恥ずかしくてなかなか言えない。
「ま、いいや頑張って!」
「うん!」
視聴覚室に着くと一人の男子生徒がいた。
見覚えはーーーない。
てことは一目惚れのパターンか。
「名代さんきてくれたんだね。よかったー」
「あ、うん。話って何?」
「好きです付き合ってください!」
いつも苦手なんだ。告白を断るのが。
どう断っても相手を傷つけてしまうから。
「あ、あの……ごめんなさい!名前も知らない人と付き合うのは……」
「あはは、そうですよね僕としたことが。小野春正《おのはるまさ》って言います!改めて付き合ってください」
「い、いやお会いしたこともない人と付き合うのは……」
「そうですよね、なら連絡先交換しましょうよ。メアドなんですか?」
詰め寄ってくる彼が怖いのか、嫌われないように上手く断ろうとして空回りしているのか、大野くんのようにはっきり言いたいのに言えないのか。おそらくこれら全てだろう。
私が断れずに曖昧な返事ばかりしてしまい、相手のペースに持って行かれてしまっている。
諦めてスマホを取り出したその時ーーー
ガララ
「名代さん。嫌だってさ」
声と同時に入ってきたのはーーー
「大野くん」
「ん?勝手に入ってきて何を言い出すかと思えば、僕が聞いているのは大野くんじゃない。名代さんに聞いてるんだ」
「確かにそうだ。でもな小野お前もう答えわかってるんだろ?振られるって。それを強引に交際へと持ち込もうとしてるんじゃないのか?」
図星を突かれたのか小野の顔が引き攣り始めた。
「ち、違う。僕はただ本気で名代さんを……」
「嘘か本気かなんて知ったことじゃねーよ。ただ本気ならそんなやり方やめとけよ。ダサいし絶対に振り向いてはくれないぞ」
その言葉を受け入れられないのか、小野くんは助けを求めるような目で私の方へと目を向けた。
勇気を出して告白した小野くんに私は最大限の敬意を払いながら私は口を開いた。
「ごめんなさい。大野くんの言う通りあなたとお付き合いするつもりはありません」
深々と頭を下げてそう告げると、小野くんは静かに視聴覚室から出ていった。
「あ、あの……助けてくれてありがとう」
視聴覚室から出ようとした大野くんを呼び止め、私はお礼を言った。
これが大野くんとの初めての会話だった。
「お前、一体どうゆうつもり?」
振り返った大野くんの目はまっすぐただただまっすぐに私へ向けられていた。
普通なら見惚れても仕方がない綺麗な顔立ち、でもその瞳は私の心を見透かしているようだった。
それが怖かったのか、私は一歩後退りしながら、返答した。
「ど、どうゆうつもりって一体どうゆうこと……?」
「いやなら嫌って言えばいいだろ。どうして中途半端な断り方をした」
大野くんの焦点は変わらず私に向けられている。
適当に誤魔化したり言い逃れができない状況は明白だった。
「嫌われるのが怖かったから……」
絞り出したような小さな声。大野くんに届いたか届いてないかわからないほどの小さな声。
「その答えだとお前はどうでも良いやつに嫌われるのと、どうでも良いやつに付き纏われるどっちかしか選べない状況でお前は付き纏われる状況をとるんだな」
「し、しっかり断るつもりだったよ……最後は……」
その言葉が気に障ったのか大野くんの目が変わった。
「最後?お前ふざけんなよ、携帯出そうとしてたやつがどうやってあの状況で断るんだよ」
「私は私なりに断ろうとしたんだよ。なのに大野くんが……」
「中途半端な優しさで相手にワンちゃんあるかのように思わせてから振る。それがお前なりの振り方なのかよ性格悪すぎるだろ」
この瞬間確信した、この言い争いはヒートアップする。
そして絶対に良くない終わり方をすると。
「性格が悪いのはどっちなの!?人のことを一ミリも考えないで言いたいことだけズカズカ言って無神経にもほどがあるよ!」
「それの何が悪い。お前みたいに自分の心に嘘をついてまで誰かに好かれたいとは思わない」
「あー、納得したよ。どんな性格をしたらあんな振り方ができるのかあんたみたいな性格の人がああいう振り方をするんだね」
「振り方?」
「昨日、見てたんだよ。全部。せっかく告白しにきてくれたのにあんな言い方。ほんっと最低」
「はっ俺の振り方なんてお前の振り方からしたらマシだと思うけど?相手のことを思ってたらお前みたいな振り方絶対にできない」
嘲笑しながら言う大野くんの表情は何故か楽しそうでかくいう私の心も久しぶりに昂っていた。
すると自然に笑いが出ていた。
「「フッ」」
「「あははは」」
「お……お前負けず嫌いすぎ」
笑いながら言う大野くんの表情は本当に楽しそうだった。
「大野くんに言われたくないよ」
「……」
「……」
沈黙が数秒続いた後、大野くんの表情が変わった。
「で、なんではっきり断ろうとしなかったんだ?」
「嫌われたくなかったって言ってもまた繰り返すだけだよね……はぁー」
ため息を吐いた私はもう何もかもどうでもよくなってしまった。
「こう見えて小学生の頃は活発でね男の子とも普通に遊んでたんだ。でも今思えばそれは男の子なりのアピールでそれがきっかけで女の子からは仲間ハズレにされたの。で極め付けは中学一年の頃に告白してきた男子を振ったら色目を使ったって変な噂を流されてクラスの女子をほとんど的に回しちゃってさ、それから決めたんだよ誰からも好かれることなく嫌われることもない適当な距離感で生きていくって」
一見するとただの自慢話を大野くんは相槌を打ちながら聞いてくれていた。
「つまり八方美人を演じてると、嫌われないために」
「そ、そうだけど……そんなはっきりーーー」
言い終えようとしたその瞬間思いがけない言葉が私が飛んでき、私の思考をストップさせた。
「俺は逆。正直に生きてやると思った」
「え?逆?どうゆうこと?」
戸惑う私に対して大野くんは落ち着いた口調で話を進めた。
「俺も昔名代さんみたいなことがあってさ、それが怖くて中途半端な距離感で接してた。でもそれじゃダメなんだよ。自分に嘘をつきながら生きてきても何も楽しくないし、周りも中途半端な人しか集まらなくなる。それが嫌だったし怖かった。本当の自分を失いそうな気がして、だから思ったんだ正直に生きていくって」
驚いた。
私からみた大野くんは相手の気持ちも考えずに言いたいことをズカズカ言ってくる無神経な奴。
でも違った、私と同じ悩みを持っているからこそその答えにたどり着いたんだ。
私が一番知っているはずなのに。
「ごめん、大野くん。なんか酷いこと言っちゃった」
深々と頭を下げて謝罪する私に大野くんも頭を下げた。
「いや、俺のほうこそ悪かった。つい……言い過ぎた……」
「ううん、いいんだよ。助けてもらったのに図星をつかれたからついムキになちゃった……」
「それは……」
「……」
「……」
どうして大野くんとの会話はこうもぎこちなくなってしまうんだろう。
緊張してるから?考えながら話しているから?恥ずかしいから?
いや、どれも違う。素で話しているからだ。
「あ、あの一つだけ聞いてもいい?」
「何?」
「ごめん昨日告白されてるのを見ちゃったんだけどさ、どうしてあんなふうな振り方をしたの?正直今の大野くんからは想像がつかない」
まずいことを聞いてしまったのかもしれない。
大野くんの顔が徐々に暗くなっていくような気がしたから。
「いつかは忘れたけど聞こえてきたんだよ確か直美さんだっけ?名前」
『大野くんかっこいいよねー』
『ねー』
『私付き合うなら絶対大野くんみたいな人がいい!』
「第一印象は見た目から入る。それは当たり前だと思う。でも見た目だけを見て付き合いたいと思うか?ましてや本当に告白してくるやつ俺は初めて見た。だからああいいう振り方をした」
大野くんの気持ちはすごくわかるような気がする。
だから……だからこそそれは違うよ大野くん。
「大野くん。それは違うよ?正直に生きるのも大事だと思う。けど……相手の気持ちを考えて言葉を選ぶのは嘘をついてることになるの?」
「そ、それは……な、ならない…」
「うん。ならないよ。ねえ大野くんお願いがあるの」
「お願い?」
「うん、さっき大野くんに言われて確信した正直な自分でいたいって。だから私に協力してほしい素の自分でいられるように」
そう言い終えると私は大野くんに握手を求めた。
大野くんはその手を握りこう口にした。
「お願いするのは俺のほうだ名代。こんなことお願いするの子供みたいで恥ずかしいけど……言葉の選びかたを教えてください」
こうして私と大野くんの奇妙な関係がスタートし。
お互いに欠かせない存在へとなっている。
そして現在ーーー卒業式の日
『香夜、卒業式が終わったら校舎裏に来てくれる?』大野
『オッケー!でも用事あるから遅くなるかも。それでも大丈夫?』香夜
『俺もなんだかんだ遅れると思うから終わったら教えてくれる?』
『オッケ!』
「名代香夜さん、好きです付き合ってください」
緊張しながら告白する男子生徒に私は精一杯の誠意を見せて断らないといけない。
中途半端な優しさは相手をその気にさせるだけだから。
それでもし嫌われるようなことがあるならもう私にはどうすることもできない。
「ありがとう。でもごめんなさい。他に好きな人がいます」
「大野くん好きです付き合ってください!」
卒業式に告白か。きっと振られると分かって後悔しないように告白してきてくれたんだろう。
それがどれだけ勇気のいることか。その気持ちに答えることはできないけど、寄り添うことはできる。
「ありがとう。でもごめんなさい。他に好きな人がいます」
誠心誠意頭を下げて断った。
すると思いがけない言葉が頭上から聞こえてきた。
「嬉しいです。しっかり断ってくれて……応援してます!」
こうゆうとき改めて思う。香夜と出会えて本当に良かったと。
「ありがとう」

