ワニくん

「嘘だ」
「ホント。でも六郷が嫌なら、この話はしない」
「俺、このあと男来るから帰って」本当は来ない。でも気まず過ぎて、和邇には帰って欲しかった。
「リョーマくん?」  
「お前、そんなことまで知ってんの」
「六郷から聞いた」自分から聞く以外に知りようがない。
「リョーマくんともう会うのやめようと思ってるなら、俺が断ろうか」
「いいよ、来るって言ったのは嘘。和邇を追い払おうと思っただけ」
「そんなに俺が嫌い?」
「嫌いじゃないけど、やるほど好きじゃない」
ソファに押し倒され、間近で見る顔に気圧される。ニャー太郎は走って行ってしまった。
「顔はかっこいい。なんで俺?」和邇の髪が顔に触れ、冷たい目がこちらを見下ろす様子にゾクッとした。
「3回も命を助けたから気になる」
「和邇がそばにいるときに3回も死にそうになったなら、離れたほうがいいかもな」
スマホが床で光る。転がり落ちたのに気が付かなかった。

「確認したい」
和邇が上からどいて、スマホを拾った。
「商店街で和邇を見かけた、バスケしに来いだって。ミツから来てる」
「いいけど、どこ?」
「行くの?」
「ウン」
意外に付き合いのいい和邇を連れて、ストリートバスケットコートへ行く。
「ワニじゃん!」
「俺が呼んだ」三厨と和邇がフィストバンプしているのを、わけのわからない気持ちで眺める。
「アオイー、どうした?元気ねえじゃん」玉田がふざけて腹に軽くパンチを入れて来た。ポーズだけだ。
「また気絶したから明日から検査。MRI嫌いなんだよ」
「大丈夫なのかよ。俺が手を握ってやろうか」
「MRIは一人じゃないとダメ。デカいチクワみたいな機械の穴に入って爆音聞きながら検査すんの。俺の味方はタマだけ」
玉田に抱きついて匂いを嗅ぐ。
「タマはいい匂いだな」
「アオイはだいぶ弱ってんな」玉田が背中をなでてくれた。

ちょうど六人いて、3on3をやることになった。
「六郷と俺とタマちゃんか」和邇が髪を縛りTシャツの袖をまくり制服の裾も引っ張り上げ、ニヤっとした。
「俺がいる方はハンデくれよ」向こうは3人全員元バスケ部だ。
「いらねー」和邇がボール片手に言った。


10分後には全員汗だくで、20分後には休憩になった。
「ハーフタイム」三厨が汗だくの額をTシャツの裾でぬぐった。
「ワニってマジで高校はバスケやってない?」
「やってないよー、バッシュ履きたくなった」
「次はバッシュ持って体育館借りてやろうぜ。六人いれば1チーム出来る。対戦相手探す」
「え?俺も頭数に入れてんの」
「アオイがワニ連れて来たんだろ。責任とれ」
「体操部の体力じゃ無理」
「一緒にやろう」和邇がべたりと抱きついて来た。
「重!お前何キロ?」
「75」
「ワニって見た目そんなにあるように見えねえけど、体すげぇ」

10時までバスケをして、解散になった。
三厨たちは和邇とも連絡先を交換し、人のまばらになった商店街を歩いて帰る。
「アオイんち泊まるの」
「荷物置きっぱなしだから取ったら帰る。俺は西本町」
「またな!アオイ!ワニ!」
みんなと別れ、飲み屋街に入る。
辺りからは店内の音楽やカラオケ、人の笑い声、料理の匂い、オレンジや黄色の光が洩れてきて、にぎやかだ。
バーの前に、休憩中のリョーマがいた。
和邇はリョーマに目もくれず、ゆったりとした歩き方で飲み屋街を抜けて家の前まで行き、木戸を押して敷地に入った。
「六郷、泊めて」
「俺たちって前泊まった時に何した」
「キスしただけ」
「嘘だ、だって…」
和邇が身をかがめてキスした。
「キスだけ。あとは忘れた。荷物取ったら帰る。明日は病院終わったら学校に来る?」
「たぶん昼には」
「待ってる。検査頑張って」